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迷いながら視線をさまよわせていると、騎士団の中にイザの姿があることに気づいた。
「イザ! 私の名前を呼んで!」
広間の人々の視線がイザに集まった。突然に裁判の中心人物になってしまっても、イザは身じろぎ一つせず堂々と前を見据えていた。その視線は姫君に向かうと、きついものに変わった。
「犯罪者の名を私が知るわけがないだろう。まだ姫君のふりを続けるというのか。そんな嘘を誰が信じると思うのだ」
姫君はイザの今のような表情を見たことはない。幼いころから一緒に遊んだ友人だ。騎士となってからは国王の親衛隊員ではあるが、姫君の身辺警護に加わることも多く、いつまでも友だと思っていた。だが今、イザは自分を知らないと言う。それどころか憎い犯罪者として睨みつけられている。
「いったい、なにが起きているの? なぜみんな私を知らない人みたいに扱うの? そうだわ、お母様! お母様ならわかってくださるはず……」
国王がぽつりと呟いた。
「王妃は姫君がさらわれたと聞き、ショックで倒れた」
「お母様が……」
王妃は元来、体が弱い。そんな母に心労をかけているのは忍びない。なんとか自分自身で姫であると証明しなければならない。
だが、どれだけ考えても名前を思い出すことはできなかった。
「そなたが姫の行方を白状すれば赦免も考えよう」
「陛下、それは」
国王の言葉に裁判官長官が異議をとなえようとしたが国王は手を上げて長官を押しとどめた。
「どうだ、本当のことを話さぬか。姫の部屋で何があったのだ」
姫君が国王を見上げると、悲しみを感じるほどに真剣な表情で、本当に姫を救うためならなんでもしようと思っているのだろうことがうかがい知れた。
「昨夜、私は結婚式を迎える喜びで眠れず、部屋の中を歩き回っておりました。すると出窓がひとりでに開き、黒い靄のようなものが部屋に入り込んできたのです。その靄は人の形に、それはとても美しい、けれど真っ赤なまがまがしい瞳を持つ女性に変わりました。その女性に黒い靄を吹きかけられて、私は気を失ったのです。気づいた時には朝で、皆に囲まれ、牢屋に連れていかれました。私が知っていることはこれだけです」
黙って話を聞いていた教会員の老爺が顔をしかめて長官に進言した。
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