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 裁きの間がざわめいた。皆がひそひそと声を交わしあう。 「静粛に! 神聖なる裁きの最中である」 長官の大声でなんとか場は静まったが、人々の表情は先ほどまでとは一変した。皆、どこか不安げに落ち着かない。 「しかし、黒き魔女の封印は二百年解けぬのではなかったか。対魔の戦からまだ三十年しかたっていない」 「黒き魔女の力がそれほど強かったものか……、あるいは誰かが封印を解いたのか」  再びざわめきが戻ってきたが、今度は長官もうろたえて制止の声を上げることができない。 「どちらにしろ、黒き魔女の塔を確認しに行かねばなりません。封印が解けて自由になっていたなら、再び魔女は世界を支配しようとするでしょう」 「しかし、もし封印が解けていたとして、王家の血を引く少女でなければ再び封印することはできないのでは。姫君が攫われた今、どうしようもない。姫君を取り返すのが先だ」  魔術師と長官の会話を国王が手を上げて止めた。 「先の黒き魔女との戦いにおいては王妃が封印の一助となったのは確かだ。だが、王家の血は濃くなくとも限らぬのではなかったか」 「はい、左様でございます」 「触れを出して先祖に王室の出のものがいる家系を探すように」 「その必要はございません、ここに王家の血を引く乙女がおります」  魔術師が言うと、皆の視線が姫君に集中した。姫君は凛と背筋をのばしてすべての視線を受けとめる。 「先ほど流れたこの者の心の水は金色に輝いておりました。王家の血の証でございます」 「そんな話、聞いたこともない。魔術師もグルになって姫君を攫ったのでは……」  長官に国王はもう一度手を上げてみせた。 「王妃が病で臥せったときに見たことがある。魔術師の治療中のことだが、その時も同じ説明を聞いた。王家の血を引くものは金色に輝く涙を流すと」  国王は姫君をじっと見つめた。 「なぜだろう。私はこのものを信じることができるような気がするのだ。このものの目が嘘をついてはいないと思うのだ」  澄んだ目は姫君がもっとも父に似たところだった。幼いころから国王は、今と同じ瞳で姫君を優しく見つめ続けてくれていた。 「娘。黒き魔女の塔へ行きその扉を開いてはくれぬか」  大臣が慌てて口を挟む。
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