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「誰がそんなこと言ったの? 小鳥なんてなんにも知らないに決まってるじゃない」  姫君はがっかりと肩を落とした。 「残念だわ。いろいろ教えてもらいたいことがあったのに」  小鳥はぴくりと首を震わすと、一直線に姫君の肩目指して飛んできた。 「なになに、なんでも教えてあげるよ」 「本当? 呪いの解き方も知っている?」 「さあ、どうだろうねー」 「あんた! いい加減にしてよ!」  廊下を戻ってきたメイドの突然の大声に驚いて、小鳥は外に飛び出していってしまって、その小さな姿はすぐに見えなくなった。 後を追おうとする姫君の腕を、メイドがぐいっと引っ張った。 「逃げようったって、そうはいかないよ。騎士様方があんたを見張ってるんだからね。悪あがきしてもむださ。さあ、来るんだよ!」  痛いほど引っぱられて姫君は諦め、大人しくメイドの後について部屋に入った。壁一面の棚に衣服が詰め込まれている。どうやら使用人たちの制服を管理している部屋のようだ。  メイドは無言で積み重なった服の中から一枚のシャツとスカートを引っ張り出して姫君の足元に放って寄こした。 「さっさと着替えな」  姫君は拾い上げた衣服を両手で広げて観察した。ブラウスもスカートも焦げ茶に染めてある、かなり厚手の木綿生地だ。ブラウスのボタンは木製で大きく、姫君のドレスについている貝や金属でできた繊細なものとは違い頑丈そうだ。 ボタンを触って研究しようとしたのだが、メイドがものすごい目で睨んでいることに気づき、慌てて着替えた。  囚人用のごわごわした服に比べると、とても快適だった。くるぶしまで覆うドレスとは違い、スカート丈が足の見える長さしかないのが少し不安ではあったが、城外の女性の服装としては普通なのだろう。 メイドが靴も投げてよこす。生まれて初めて裸足で歩き、足の裏を擦りむいていた姫君には、これほど嬉しいものはない。いそいそと足を入れてみる。少し大きかったがクッションがしっかりときいて足が楽になった。 「そのゴミみたいな服はあそこの屑箱に捨てな」  姫君は指さされた箱に囚人服を入れ、メイドが無言のまま開けたドアをくぐる。
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