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エピローグ
***
隣でゆっくりと上下する肩にシーツをかける。柔らかな黒い髪に指を通して梳くと、さらさらと額を流れた。まだ少し赤い目もとに胸が痛む。
「別れよう」
突然の森見の言葉に俺は怯えて、キレた。それでも頑なな森見に、最後には情けなく懇願した。
「いやだ別れたくない」
森見が別れを切り出した理由はわかっていた。辛い思いをさせてきたのは俺だ。けれどこんな別れは俺も、そして森見も絶対に本意ではないはずだ。事実、こんなにも苦しそうな顔を見せられて、どうしてそれを受け入れられるだろうか?
「お前が」
逃げられないようにそっと手を伸ばして頬に触れる。
「お前のために別れたいって言うんなら別れる。すげえ辛いけど」
この言い方は卑怯かもしれないと思う。けど俺はお前を失わないためならどれだけでも卑怯になる。
「でもどうせお前は俺のために別れるとか言うんだろ?」
瞳が揺れて、
「俺は、俺のためにはお前と別れない」
伏せた目蓋が涙を押し出した。
「浩之、」
もう一度開かれたときにはもう次の涙の粒がこぼれていて。お前が本気で覚悟してたことを俺はわかってる。だから。
「愛してる」
だからお前がいとおしい。
「理一、――…」
首に腕が回されて引き寄せられる。熱い吐息と一緒に耳元でささやかれた言葉に、俺は未来が見えた気がした。
寝ている森見の頼りない体を引き寄せる。徐々に混ざり合う互いの温度が心地いい。俺は絶対にこの体温を離したりはしない。
未来に覚悟を決めると俺は静かに目を閉じた。
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