プロローグ

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プロローグ

 何度も考えて結論を出した。どんなふうに切り出すかも何度も考えた。  伊坂家はこの土地に古くからある家で、大地主であったという。遡っては江戸幕府解体後の激動の時代を乗り切り、戦後の混乱を生き抜いて戦禍を逃れたこの地で高度成長期に先代の主、つまり伊坂の祖父という人が会社を大きくした。伊坂の名を冠した製薬会社の名前はコマーシャルでも馴染み深い。  元々就職を希望していた伊坂が三年に上がり大学進学へ進路を変えたのはそこに由来している。兄がいるとはいえ、ほとんど親族経営の会社で伊坂家の次男にもそれなりのポストが用意されているようだった。  もちろん最初は就職を希望していたことからもわかるように、すんなり会社に入ることを承諾していたわけではないし、伊坂家の人間とはいえ初めから安定のポジションをもらえるわけでもなく、今は平社員として日々くたくたになりながら帰ってくる。  そう、俺は伊坂がどれだけ努力しているかを知っている。そして更には俺のことで父親と揉めていることも。そうでなければこんな結論は出さなかっただろう。  俺は何度も考えて結論を出し、どんなふうに切り出すかも何度も考えた。  それでも俺は上手く切り出すことができなかった。 「別れよう」  ただまっすぐに見つめた。熱くなってきた目の奥に、まだ涙は流れるなと願いながら。
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