1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
待ち時間を利用して、来させてもらったのに。
路傍の石をつま先で蹴って、路傍の僕はため息をついた。
博多駅の雑踏の中。
右側がJR西日本、左側がJR九州とよ、と、いかにも楽しそうに教えてくれた彼女の姿はもう見えない。
優しい目をした、輝くショートヘアが可愛らしかった彼女。
物腰柔らかで、だれにでも親切で、僕が周囲に嫉妬してしまうくらいだった。彼女の優しさが全部ほしかった。
おっちょこちょいの僕がどんな失敗をしても、困ったようにほんのり微笑んで、もう、次は気ぃつけーよ、と一緒に謝ってくれていた彼女。
学生時代遅刻をしても、ソフトクリームをぶつけても、小遣いを散財しても、両親の死に目に会えなくても、僕は否定されなかった。
大変だったね、と。失敗したときは次のために考えるんだよ、と。
小さな掌で優しく導いてくれた。
だから僕は、失敗しながらも、夢だった美容師になれたのだ。
ここは、彼女と買い物によく来ていた思い出の場所だ。
週に一回の土曜のお出かけは、彼女と僕の楽しみだった。
だけど――。
最初のコメントを投稿しよう!