となりに

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待ち時間を利用して、来させてもらったのに。 路傍の石をつま先で蹴って、路傍の僕はため息をついた。 博多駅の雑踏の中。 右側がJR西日本、左側がJR九州とよ、と、いかにも楽しそうに教えてくれた彼女の姿はもう見えない。 優しい目をした、輝くショートヘアが可愛らしかった彼女。 物腰柔らかで、だれにでも親切で、僕が周囲に嫉妬してしまうくらいだった。彼女の優しさが全部ほしかった。 おっちょこちょいの僕がどんな失敗をしても、困ったようにほんのり微笑んで、もう、次は気ぃつけーよ、と一緒に謝ってくれていた彼女。 学生時代遅刻をしても、ソフトクリームをぶつけても、小遣いを散財しても、両親の死に目に会えなくても、僕は否定されなかった。 大変だったね、と。失敗したときは次のために考えるんだよ、と。 小さな掌で優しく導いてくれた。 だから僕は、失敗しながらも、夢だった美容師になれたのだ。 ここは、彼女と買い物によく来ていた思い出の場所だ。 週に一回の土曜のお出かけは、彼女と僕の楽しみだった。 だけど――。
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