パイン色の秘密

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 フロントはホテルの顔だとよく言われる。良くも悪くもフロントの態度次第で、そのホテルの印象が決まってしまうことが多々あるから責任重大だ。  フロントクラークは臨機応変な対応を求められることが多く、まだまだ慣れない私は緊張しっぱなしだけれど、お客様の困りごとに上手く対処できて感謝されると遣り甲斐を感じるようにもなってきた。  うちのような小さなビジネスホテルだとフロントがコンシェルジュも兼ねているし、忙しい時にはレストランの給仕をすることもあり、業務内容は想像以上に多岐に渡る。  覚えることが多すぎて大変だけれど、『私にも出来る』という自信が少しずつ積み上がっていくのを感じる。  夜のシフトのスタッフに引き継ぎをしたら、私の本日の業務は終了。  私は手早く着替えて、ホテルの隣にあるこじんまりした昔ながらのカフェへと急いだ。  カフェの奥まった席に座って待っていたのは、岩城さん親子だ。  「お待たせしました」と頭を下げながら席に座ろうとしたら、お父さんの方が慌てて立ち上がって私の椅子を引いてくれた。  和臣も海外生活が長いせいか、必ず私の椅子を引いてくれる。岩城さんのお父さんもそうなのかもしれない。  「ありがとうございます」と言って腰を掛け、お父さんを見ると彼がヒョコッと右足を引き摺っていることに気づいてしまった。 「あ! もしかしてあなたは……」 「思い出していただけましたか? お父上の下で秘書室長を務めていた柏葉です。灯里お嬢様は私のことを『ヒョコヒョコおじさん』と呼んでいらっしゃいました」  家によく来ていた『ヒョコヒョコおじさん』は、父の腹心の部下だった。若い頃に何かのスポーツで膝を痛めたせいで、足を引き摺っているのだと聞いた記憶がある。  真湖と私が家で遊んでいると、よくプリンを手土産に持ってきてくれたものだ。  人当たりがいいから真湖は結構懐いていたけれど、私はあまり好きではなかった。彼がキッチンで圭子さんに言い寄っているのを目撃したことがあったから。
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