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穏やかに日々は過ぎていき、街がクリスマスカラーに彩られる頃。
私の職場であるビジネスホテルも、ささやかではあるけれどクリスマスらしい装飾を施していた。
その一つがフロント横に置かれたクリスマスツリー。
そのツリーを横目に見ながら、同僚の根岸さんが私に質問をしてきた。
「ねえ、不破さんはクリスマスはどうするの?」
「シフトは入ってないけど?」
「やだな、そういうことじゃなくさ。新婚さんなんだから、どこかの高級レストランでおしゃれなディナー? それとも家でまったり二人で過ごすの?」
確か和臣はレストランを予約したと言っていた。「ドレスアップしてデートしよう」と。
結婚式以降、公の場に二人で出かけたことがないから少し緊張するけれど、和臣との初デートに今からワクワクしている。
もちろんディナーの後は家に帰って二人で過ごすわけだけれど……。
「ディナーには行く予定だけど、”まったり”はないわね、きっと」
帰った途端に、求め合ってベッドに雪崩れ込むことは確実だ。
聖なる夜に不謹慎かもしれないけれど、大方の恋人たちがそうやって過ごすのだから許されるだろう。
それで新しい命が宿ったら素敵だと思う。
「え? もう倦怠期?」
根岸さんの誤解に苦笑しながら、どう説明しようかと思っていたら、自動ドアが開いて男性客が二人現れた。
「いらっしゃいませ」
根岸さんと双子のように息の合った会釈をしながらも、私は動揺のあまり手が震えていた。どうして彼が? 偶然?
顔を上げて、もう一度驚いた。
岩城さんと一緒にいる中年男性が、あまりに岩城さんにそっくりだったから。
両親の離婚後、岩城さんは母親に引き取られたと言っていたけれど、父親と絶縁したわけではないらしい。
「灯里さん⁉ どうしてここに?」
声が裏返った岩城さんは心底驚いたようだから、彼がうちのホテルに泊まりに来たのは偶然みたいだ。
警戒していた心を少し緩めて「今はこちらで働かせていただいているんです」と微笑んで見せると、彼は父親と顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
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