パイン色の秘密

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 叔父は柏葉さんのことを『四宮交通の元従業員』と言っていたから、てっきり私とは面識のない平社員かと思っていた。  でもよく考えれば、役職者だったからこそ息子を有名私立中学に通わせられていたのだろう。 「やっぱり驚かないんですね。僕の正体がバレたから破談にした。本当はそうだったんでしょう?」 「と言うよりも、岩城さんのお父様がうちの元社員なのに、あなたがそれを隠していたことに祖父は不信感を抱いたんです」 「なるほどね。正直に言えば良かったということですか」  岩城さんは悪びれる様子もなく肩を竦めた。  彼が「仕事が終わってからでいいから少し話がしたい」と言ってきたのは、父親を私に見られて隠しごとがバレたと観念したからかもしれない。  それにしても、この親子、瓜二つだ。岩城さんの三十年後の姿が目の前にあるみたい。  ああ、そうか。真湖も私も岩城さん本人に見覚えがあったのではなく、彼の父親のことを微かに覚えていたんだ。   確かに若い頃の柏葉さんも、こんな感じの濃い顔のイケメンだった。  あれ? じゃあ、誘拐犯は岩城さんじゃなかったかもしれないということ? 「明日、親戚の法事があるんで上京してきたんです。灯里さんが不破和臣と結婚したと知って【ドーンホテル】を避けてこのホテルにしたのに、こちらで働いているなんて避けた意味なかったな」  さっきフロントで、二人が顔を見合わせて苦笑いしていた訳がわかった。わざわざこんなビジネスホテルにしたのに、お気の毒さま。 「結局、岩城さんは何の目的で私とお見合いをしたんですか? 結婚する気はなかったんですよね? 憎い男の娘となんか」  資金援助する代わりに私を妻に迎えたいという申し出とは裏腹に、岩城さんからは私への愛情を感じ取ることはできなかった。  和臣からの愛をひしひしと実感できる今だからこそ、それがわかる。 「僕に惚れさせて、結婚直前でフッてやろうと思ってました。これでも結構モテるんで自信があったんだけど、案外早くバレましたね」  ニカッと笑った岩城さんの頭を柏葉さんが叩くのを見て、やっぱりこの人は【彼】じゃないと確信した。口封じかもしれないなんて考えすぎだった。
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