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カフェで岩城さん親子と別れてから、どうやって帰ってきたかよく覚えていない。
遠くでゴロゴロと雷が鳴っているのが聞こえるから、そのうちザッと降ってくるのかもしれない。
急ぎ足で坂を上ってきたから、息が上がって苦しい。
胸がこんなに痛いのは、きっと運動不足のせいだ。
マンションのエントランスでコンシェルジュの植木さんが「お帰りなさいませ」と出迎えてくれたけれど、私は上手く笑顔を返せなかった。
ちょっと頭を整理したい。
和臣はずっと私に嘘を吐いていた。
ううん、そうじゃない。岩城さんと同じで、父親が四宮交通の関係者だったことを隠していただけだ。
柏葉さんによれば、和臣の父親が経営していた小さなホテルは四宮交通の観光バスツアーの契約ホテルの一つだったそうだ。
ところが食中毒が発生したことを機に客足が遠のき、従業員も次々と辞めていった。
必死に立て直しを図っていたところに、四宮交通から契約の打ち切りを突きつけられて倒産した。
そして、その直後に和臣の父親は交通事故死したらしい。
息子同士が同い年だということもあり、柏葉さんは和臣の父親と気が合って一緒に飲みに行く仲だったそうだ。
酔った父親を家に送っていった時に、和臣とも会ったことがあるそうで、大人しい内気な少年だったという。
父親の死後、和臣は母親も亡くして母方の伯母に引き取られ渡米したわけだけれど、柏葉さんはそこまでは知らなかった。
残された妻子がどうしているか気になってはいたものの、自分も失業して離婚したばかりだから、忙しさに紛れていったのも無理はない。
柏葉さんがすっかり忘れていた旧友の息子の消息を知ったのは、私との結婚を報じた週刊誌の写真を見た時だそうだ。
不破の姓は伯母さんの夫の姓だから、【ドーンホテル】の不破和臣は知っていても、昔会ったシャイな少年とは結び付かなかった。でも、私と並んで写る和臣のはにかんだ笑顔を見てピンと来たという。
そして、私のことが心配になったと柏葉さんは言った。
不破和臣は父親の復讐のために、私と結婚したのではないかと。
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