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いつものように鍵を開けて玄関に入ると、和臣の大きな革靴が脱いであって驚いた。
彼がこんなに早く帰っているなんて珍しい。
急いで夕ご飯の支度をしなければと思いながら、リビングにいる和臣に声をかけようとした時だった。
いきなり玄関と洗面所の照明が消えて真っ暗になった。廊下に漏れていたリビングの明かりも消えている。
「わっ!」という和臣の驚いた声が聞こえてきて、何だか可愛いなと思った。堂々たる大企業のCEОが、たかが停電に動揺しちゃって。
さっきまで胸に渦巻いていた疑念と不信は、一瞬にして消えていた。
きっと和臣は父親の会社と四宮の繋がりを知らなかったのだろう。ただそれだけのこと。
近くに雷が落ちたに違いない。懐中電灯はどこだっけ? 確かリビングと寝室に、一つずつ置いてあったはずだ。
手探りでリビングのドアを開けて暗闇に目を凝らすと、ソファーの辺りで和臣が何やらブツブツ呟いているのが聞こえた。
私が帰ってきたことに、まったく気づいていないみたいだ。ちょっと驚かしちゃおうか?
足音を忍ばせて、こっそり近づいていく。
「くわばらくわばら」
和臣の言葉がはっきり聞き取れて、驚いてバランスを崩した私はソファーの角に脚をぶつけてしまった。
でも、痛みを全然感じないほど、心臓がバクバクいっている。
”まさか”という気持ちと同時に、今になって【彼】の顔が記憶の底から蘇ってくる。
「雷神様はこっち来るな」
和臣がそう言った途端に、パッと照明が点いたのは皮肉としか言いようがない。
すぐ間近に私が立っていたことに驚いた和臣は、仰け反りながら「灯里……」と呟いて俯いた。
「和臣、まさかあなたが? 十四年前、私を誘拐したのはあなただったの?」
お願い、違うと言って。おまじないは他の誰かに教えてもらったのだと笑って。
祈るような思いで和臣の返事を待ったのに、彼の口から漏れたのは深く重いため息だった。
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