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和臣は頭を抱えて二回深呼吸をした。その息が震えている。
これから始まるのは、昔の犯罪の告白だろうか。それとも、口封じと更なる復讐か。
和臣がそんな人だとは思えないけれど、私は彼の何を知っていたのだろう。
「さっき岩城誠也のお父さんと偶然会って、昔、和臣のお父様のホテルが四宮の取引先だったと聞いたわ。四宮が契約を打ち切ったせいで倒産したって。……和臣は知ってたのね。だから、父を恨んで私を誘拐した。そうなんでしょ?」
「灯里には」
やっと口を開いた和臣の声は掠れていて、「んんっ」と咳払いしてから彼は顔を上げた。
「すまない。灯里には本当に悪いことをしたと思ってる。……父さんが自殺して、母さんまで後を追うように病死して。伯母さん夫婦が引き取ってくれることになったのはありがたかったけど、英語が苦手な俺がアメリカに行かなくちゃならなくなって。あの頃の俺は次々と襲いくる展開に、頭も心もついていけなかったんだ」
「待って。お父様は交通事故死だったんでしょ?」
「見通しのいい道路で真昼間に電柱に激突してな。いつも必ずシートベルトを締める人で、俺に対しても口うるさいぐらいに締めろって言ってたくせに、あの日だけは締めてなかったなんて変だろ? あれは自殺だよ。母さんと俺に保険金を遺すための」
「そんな……」
倒産に追い込まれた父親は病気の妻と中学生の息子を抱えて、哀しい決断をした。
和臣が父の死は自殺だと悟ったのなら、母親だってそう思ったはずだ。
そして、自分の医療費でこれ以上息子に負担をかけないようにと、生きることをやめてしまったのかもしれない。病と闘う意志を失くしてしまえば、案外人は呆気なく死んでしまうものだから。
ならば、和臣の両親を死に追いやったのは間違いなく四宮で、彼に恨まれても仕方ないと思えた。
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