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停電はすぐに復旧したものの、まだ窓の外ではゴロゴロと雷が鳴っている。
雷鳴を酷く怖がっていた理由を、【彼】は何と言っていたっけ?
「父さんの遺体が見つかったって連絡を受けた時も、母さんが病院で息を引き取った時も、こんな風に雷が鳴ってたんだ」
私の心の声に答えるように、和臣が教えてくれた。
幼かった私は「大丈夫」と励まして、おまじないを繰り返すことしか出来なかった。
でも、今の私にはそれすら出来ない。「大丈夫」なんて言う資格はない。
「ごめんなさい」
涙と一緒に溢れ出たのは、拙い謝罪の言葉だった。
「どうして灯里が謝る? 灯里は何も悪くないだろ? 灯里のお父さんだって悪いことをしたわけじゃない。経営者として当然の判断を下したまでだ。今ならわかることが、中学生の俺にはわからなかった。それで、あんな恐ろしいことをしでかしてしまったんだ」
――八歳の少女を誘拐して、その父親を自殺に追い込んだ。
和臣の犯した罪は重いのに、どうして被害者である私は彼を憎むことができないのだろう。
それどころか苦悶の表情を浮かべる彼を、今すぐ抱きしめてあげたいとすら思ってしまう。
「最初から誘拐しようと思ってたわけじゃないんだ。ただ学校帰りの君を見ていただけだった。でも、急に雨が降ってきて、思わず傘を差しかけたら君がニコッと笑ったんだ。その笑顔があんまり可愛かったから、キャンディーをあげた」
「パイン色のキャンディーよね? 初めて食べたらとてもおいしくって、『もっとあげようか?』って言われてついていった。あの日、テストで悪い点を取ったから、家に帰るのが嫌だったの」
導かれるように蘇ってきた記憶は、まるで冷凍保存されていたみたいに鮮明だ。
折り畳みの黒い傘は二人で入るには少し小さくて、『お兄さん』の肩は濡れていた。
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