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動揺したせいか緊張のせいか喉の乾きを覚えた私は、キッチンに行ってウォーターサーバーの水を二つのグラスに注いだ。
その一つをソファーに座ったままの和臣に渡すと、「ありがとう」と呟いてゴクゴクと一気に飲み干したから、彼も緊張しているのだろう。
それはそうだ。昔、自分が犯した犯罪が露見したんだから。
「不思議なのは、どうやって一週間も私を隠しておけたのかってこと。あの家は和臣の家だったの?」
少し遠かったけれど、私の家から歩いていけるぐらいの距離だったと思う。
「うん、売りに出す前に片づけてる途中だった。あの一週間は伯母がアメリカの家を見に行ってて、夜、伯父が仕事から帰宅するまでに伯母の家に戻れば良かったから昼間は自由だったんだ。家の片づけをしてたのは本当だしね」
「私まで片づけを手伝わされたよね」
キッチンにある物は全部捨てるから、不燃ごみと可燃ごみに分けてゴミ袋に入れるのが幼い私に与えられたミッションだった。
食事は『お兄さん』がスクランブルエッグとか簡単なものを作ってくれたし、おやつのつまみ食いも許されていた。
やり始めると熱中する性質の私は、「今日はここまでにしよう」と彼に止められても「もう少し」と粘って片づけていた。
それで、夜になると疲れて眠くなって、彼が伯母さんの家に帰ったのも知らずに眠っていたのだろう。朝起きたら、彼はもう同じ家にいて片づけを始めていたから、夜中一人にされていたことすら気づいていなかった。
「父になんて言ったの? 身代金の要求をした? それとも父の命を差し出せって脅したの?」
呑気に家の片づけを手伝っていた自分に腹が立つ。
可愛いクッキーの抜き型を発見しては喜んだりして。
その間に、父は私を心配して、絶望し、自らの命を絶ったのに。
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