プロローグ

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 肌にまとわりつくような嫌な風が吹いていた。  禍々しいぐらいに暗い雲が西の方から迫ってくるのが見える。今日も来るのかもしれない。  このところ、関東地方のあちこちでゲリラ雷雨が観測されている。  昨日はまだ仕事中で事務所の中にいたから雨に降られずに済んだものの、今日は思った以上に早く降り出しそうだ。  せっかくの休日だから、なるべく家にいたくなくて買い物に出たけれど、もっと早く帰ってくれば良かった。  駅から自宅までの道は急勾配の登り坂。それを電動でもない自転車を焦りながら漕いでいた私は、スーッと引き潮のように急に気温が下がるのを感じた。  家まで持ちそうもない。この坂道の途中でゲリラ雷雨に遭ったら、滝のように流れ落ちてくる雨に逆らって登ることは至難の業だ。  急遽、近くのスーパーに避難することに決め、駐輪場に自転車を停めた瞬間、ポツンと大粒の雨粒がハンドルを握る右手の甲を濡らした。  いきなり激しく降ってきた雨は、強風のせいで上からではなく横から殴りかかるように襲ってきた。  慌てて店内に駆け込み、濡れた髪や顔をハンカチで押さえるように拭く。  薄ピンクのシフォンブラウスが肌に張り付いて、胸だけある貧相な身体を露わにしていた。  とりあえず何か買って、しばらく雨宿りさせてもらおう。  いつになったら小降りになるかわからないから、冷蔵品はダメだ。常温保存できる嵩張らないもの。キャンディーとか?  考えながら店内用の緑色のカゴを手に取り、まっすぐお菓子売り場に進んだ。  陳列棚には色鮮やかなパッケージが並んでいた。ポテトチップス、チョコレート、クッキー。  キャンディーはどこだろう。反対側の陳列棚を見ると、目に飛び込んできたのはパイン色のキャンディーだった。  懐かしい。思わず手に取ったその時だ。  バチンと変な音がして、スーパーの中の照明が一斉に消えた。
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