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プラさんの旧友
ガチャンとドアが開く音がした。
シルバーヘアーのダンディな男性が入ってきた。
高そうなスーツに身をまとって、些かインテリヤクザに見えなくもない。
「スミマセン、中田亮太はいますか?」
低い声が響き渡り、緊張感が漂った。
「アンタどちらさん?」
インタが、気圧されないように負けじと低い声で返したのだろうが、胸にキティちゃんのエプロンを付けているのを忘れている。
「申し遅れました。私は中田亮太と故郷が一緒で、幼馴染の高村ヒロシといいます。ここに来れば亮太に会えると聞いたもんで」と軽く会釈をする。
「何だアンタ、プラさんのダチかい。だったら最初からそう言ってくれればいいのに」
急にインタが、馴れ馴れしくなる。
「プラさん?亮太はそう呼ばれているんですか」
「そうだよ。アイツのフルネームはプラシーボ・ドサエモン」
余計なことは言うなと、セニョの手がヘンテの口を塞ぐ。
「ヘンテ、話がややこしくなるから黙ってて------単なるあだ名ですから気にしないで」
「プラシーボ・ドサエモン!」
高村はアライグマがスカンクにガスをカマされたような顔になる。
「残念ながらプラさんは、昨日から嫁さん連れて、一泊の温泉旅行に行っている。今日戻るが、時間はわからねぇよ」とカンタが言うと、言下にセニョが
「いつも遊んでばかりだから、罪滅ぼしだと言ってました」
「イヤ急に来た私が悪いんです。なんせ数十年振りなもんで、連絡先も知らないんです」
「そういうことか、でも高村ちゃん、アンタはブラさんのダチだから俺達のダチも同然だ。これからはタメ語でいこうよ」
「よっ、いいこと言ったヘンテ。よし俺が高村ちゃんにあだ名を付けてやる」
インタの発言にセニョがすぐさま反応。
「友達のあだ名がプラシーボ・ドサエモンになってて、ハイお願いしますとなると思ってんの」
「いや是非お願いします」
セニョは狐につままれた様な顔になる。
「よし任せなさい。イタリア風のオシャレなスーツを決め込んだダンディな装いで、その中身は平たい顔の日本人、その名もダンペイ・コロシアムだ」
「ヤッパリ、お断りします」
「よろしくなダンペイ」
ヘンテが握手を求める。
もう後戻りはできなかった。
ダンペイ・コロシアムの誕生の瞬間であった。
そこで改めてメンバーの自己紹介をし、プラさんの近況を報告した。
「へえー皆さんバンドをやってるんですか。でも、亮太がドラムを叩けるなんて初耳だったな」
「そりゃそうだろう。アイツがドラムを始めたのは、40を過ぎてからだ」とインタが言う。
「インタ以外は皆んな40を超えてから始めたんだ」
カンタが自慢げに言う。
「私は、楽器は弾けません。唯のマネージャーです」
イナちゃんが頭を掻きながら、ペットボトルのお茶を差し出す。
「それで、17歳のそりゃないよセニョリータちゃんは、どうして、このむさ苦しい---失礼、個性豊かなオッサン達と?」
「長い~、セニョって言って」
「じゃあ、どうしてこの小汚い---失礼、このヘンテコな---失礼、このユニークな輩のボーカルを」
「ダンペイ、さっきからわざと言ってるだろう」
ヘンテの返しに大笑いするダンペイ。
お互いタメ語が気にならなくなってきた。
「話せば長くなるから。要するに馬が合うってこと」
「ふ~ん、亮太が羨ましくなってきたな。こんな仲間に恵まれて」
「プラさんのダチならいつでも歓迎、今度LIVEやる時呼ぶから」とインタが言うと、
「何処のライブハウスでやるの」
「隣町の祭り会場」
「わかったぞ、あんた達コミックバンドなんだな」
「オイ、ダンペイ。失礼なことを言うな。セニョ、俺達のCDキンカン坊主頭を1枚土産としてくれてやれ」
「ヘンテそんなことしたら、逆効果でしょう」
暫く、プラさんの話題を中心に話が盛り上がったが最後にダンペイは、こんな話をした。
「アンタ達、亮太が若い時、ヤクザの道に入りかけたのを知ってるか?」
流石に場が静まり返った。
冷蔵庫のブ〜ンとなりだす音が、店じゅうに響き渡る。
次回 {ブラさんの過去]
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