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葬式屋の恩返し
「わかりました、それではお待ちしております」
インタが受話器を置いた。
「誰か来るのか?」プラさんが尋ねる。
「ヘンテお前に会いたいんだと。電話変わろうって言っただけど、もう近くに来てるんだって」
「お前に御礼がしたいんだってさ」
「ヘンテに御礼?お前亀でも助けたのか」カンタがからかう。
「わかったぞ、そいつは俺のファンだ。俺に会いたいが為に、そんな事を言ってるんだ」
「ヘンテにファン1人がいるなら俺には1000人いなければ辻褄が合わない」
「ヘンテとインタはどっちもどっち、ガップリ四つに組んでいるのを知らないようね」
セニョに言われて互いに目を合わせる二人。
15分後に噂の人物が現れた。
かなり歳をいった老婆と、支える様に手を引く恰幅の良い仕立ての背広を着た男性だ。
「突然お邪魔してスミマセン。私は、こういうものです」
インタが名刺を受け取る。
天葬社
代表取締役 園馬大男
もらった名刺をヘンテに渡す。
「葬式屋の社長の名前が閻魔大王?」
「ソノバ ダイキと読みます」
「ヘンテいい加減にしなさいよ」
名刺を受け取りセニョは本当にそうだと思った。
「この方がヘンテさんですか。その節はこの母の園馬正子がお世話になりました」
ヘンテはこの俺がこの婆さんをお世話と思いながら顔をじっくり眺める。
「ああ思い出した。あの時の婆さんかい。身なりが全然違うから分かんなかったよ」
「あの時はありがとうね。タイキ早くそれを渡しなさい」
手に持った果物がが盛ってある籠をヘンテに渡す。
「そのフルーツは高級果物店の包ですよ。メロン一個何万円もする」イナちゃんが言う。
「こんないいものを貰うような事して無いよ」
「何があったか教えろヘンテ」
ヘンテは端的に説明した。
10日ほど前にショッピングモールの前の少し大きな道路で、道を渡ろうとして足がおぼつかない老婆を見たヘンテは、「俺の背中に乗っかりな」と言ってオンブしながら横断歩道を渡ったのである。
「ありがとうございます、お兄さん」
「婆さん1人なのかい」
「孫と一緒だったんだけどね、はぐれちゃって」
「しょうがないな。それじゃモールの受付まで送ってやるよ。マイクで放送してもらいな」
そう言って中まで連れ添ったのである。
別れ間際に「せめて名前でも」と言われ、
「名乗るほどでもないが、隠すような名前でもない。オレの名はヘンテだ、会いたくなったら、この町の蟻の門渡りって言うカラオケスナックに昼間からいるから会いにきな」
「アリノトワタリ?」
婆さんは不思議そうな顔をした。
只それだけである。
「いや~あの時は本当に嬉しかったよ。手を引いてくれる人はいても、背負ってまでくれる人は中々いませんからね」
「本当に母が感謝して、アリノトワタリ、アリノトワタリって言って口を塞ぐのに大変でした」
「だから店の名前を変えろって言ってるでしょう」
セニョは口を尖らせる。
インタは聞く耳持たずって顔をしている。
「皆さん達はお友達ですか?」
「俺たちはバンド仲間なんだ」
「バンドって何だい」
「母さんこの人達は、音楽をやってるんだよ」
「へえーそうかい。今度聞かせて下さい」
「聞いたら腰を抜かすよ」
最後みんなで笑った。
改めて礼を言って親子は帰って行った。
すかさず、フルーツをかごから取り出すと、ヘンテが言った。
「これを皆におすそ分けするが、日頃のヘンテ様の行いに感謝して、ヘンテ様頂きますと言ってから食べるように」
これが無ければヘンテは良い奴なのにとメンバーは思った。
それから10日ほど立った日の午後、メンバーに緊急集合がかかった。
この日の主役はイナちゃんだ。
「私が店に入って直ぐ、1本の電話が入りました」
「インタさんの留守を告げると、ひょっとこ&ブラザーズの責任者の連絡先を尋ねてきました」
「それでどうした」とヘンテ。
「私がマネージャーだと告げると、丁度良かたとある事を頼まれました」
メンバーは固唾をのんで聞いている。
「ナント、CMの歌を制作してくれと」
一瞬沈黙のあと、うわ~っと雄叫びを上げ、拍手喝采となる。
「嘘だろう、まともな音楽活動をしてもいない俺達にどうして」
冷静なプラさんは尋ねた。
「天葬社ですよ、閻魔大王が社長の」
「なるほどな、葬式屋の恩返しってことか」
カンタが納得したように首をふる。
「それで私、天葬社をネットで調べてみたんですけど、隣の○○県で1番大きな年商150億もある立派な企業だったんですね」
「なるほどね~ 人助けはしとくもんだな」
インタはつくづくそう思った。
「それで、OKしたのか」ヘンテが聞くと
「いやまだ皆さんの了解を得てと思って」
「何してる、今すぐ契約をしてくるんだ。相手の気が変わらぬうちにー」
天葬社は今年創立50周年ヲ迎えるにあたり、CMに流す歌を替えようということになった。
それを耳にし、亡くなった創業者の妻で名誉会長でもある園馬トキ子が白ら羽の矢を立てたのが、ひょっとこ&ドザエモンブラザーズだったのだ。
社長や他の幹部も反対したようだが、トキ子の発言力は絶大で覆すことはできなかった。
斯くしてひょっとこ達は、イチ地方とは言えCMデビューを果たすことになる。
次回 [CMデビュー]
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