ボトフ現る

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ボトフ現る

 何時ものように「蟻の門渡り」に集まるひょっとこのメンバー、昨夜の店の片付けをするインタ、それを手伝うセニョ。 新聞、雑誌を読んでいるカンタとプラさん。ギター片手に曲作りに励むヘンテ。    「内面の輝き」とポツリと囁いたセニョ。    「どうしたセニョ」隣からインタが尋ねる。    「ジョニーって心が清らかだったなと思って。ねぇカンタ、ジョニー元気にしてるのかなぁ」    「さ〜どうだかな、アメリカに帰ったっきり連絡がねぇが、まっ、あいつの事だから心配ないさ」   プラさんがニヤリと笑い。     「何だセニョ、お前惚れてたのか」     「そんなんじゃないけど」 そこで、ヘンテが徐ろにこう言った。    「いいなセニョ、その内面の輝き」    「どういう事だ」コップを洗う手を止めてインタが聞いた。    「内面の輝きだよ、使い古された様で、新しくも感じる言葉だ。よし気に入った。そのタイトルで一曲創るか」   皆に緊張が走る。 なんせあの究極の駄作、「キンカン坊主」の二の舞になるのではと。    「よし家に帰って創ってくる。ここじゃ気が散って、大作ができる気がしない」   思い立っては直ぐに行動に出るのがヘンテだ。 そそくさと店を出ていった。 何が大作だと皆が思ったが、いつもの事で気にしない。  2時間後、ヘンテが喜び勇んで帰ってきた。    「よう、皆んな待たせたな。まったく俺は天才だ、いいのが出来たぞ」 誰も待ってはいなかったが嫌な予感がした。    「今回、韻を踏むことに挑戦したんだ、聴いてくれ」 ヘンテは、ギターを引きながら新曲を披露した。       内面の輝き        作詞作曲 ひょっとこ変態性低気圧   内面の輝き 能面の輝き      オヤキが大好きロシア人     内面の輝き オーメンの輝き     祟りが大好き ハッタリくん   星が輝きなくしても     照らしてやるさ世界中     君が笑顔をなくしても      100ワットの電球のように       「ねぇ、ひょっとして私がこれを歌うの?」 セニョは当然気に入らない。    「何か問題でも」    「問題だらけでしょ」 セニョは口をとがらせて講義する。    「ヘンテ、韻を踏めば、良しってもんじゃないだろう」プラさんが助け船を出す。    「何だプラさんまで、この歌の良さが分からんのか」     「兎に角、私この歌イヤ、嫌い、歌いたくない。ねぇインタ何とか言って」     とその時、店の扉が開いた。一人の女性が入ってきた。   「いや〜皆さん、お久し振りッス」   童顔の丸顔で、ジャージ姿の女が現れた。    「おう、ポトフじゃねぇか。バンドの皆んな元気にしてるか」  カンタが声をかける。     そうこの女、ウルトラスーパーデラックス•スペシャルのカスタムホールで対バンした、「ザ・カウンタックス」のボーカルである。    「実は今日、相談があって来たんスヨ」と頭を掻きながら言った。    「珍しいじゃないか、お前が頼み事なんて。まっ座りな、コーラでも飲んでけ」 インタはペットボトルに入ったコーラ渡す。 ポトフはカウンターのストゥールに腰を下ろし、軽く近況を報告した後こう言った。      「実は先日、プロダクションを紹介してもらったんすよ」    「なんだーお前達、俺らを先越してプロになるってか」ヘンテが声をあげた。    「まだ決まったわけじゃないんスヨ。それにインディーズ専門の小さな事務所です」恥ずかしそうに話すポトフ。    「でも凄い話じゃないか、アマチュアにとっては、最初の一歩だ」 プラさんからポトフの肩をトントンと叩く。    「ありがとう、プラさん。それでお願いというのは・・・・」    ポトフの相談の内容はこうだ。   事務所の社長と面談をし、自分達の楽曲を披露した。 そこで社長に言われたことは、來週の水曜日迄に、新曲を5曲創って持ってこいと言われたそうだ。   現在のクオリティーと創作能力を観たいのだと言われた。 しかし、期間が迫り何とか4曲は出来上がったが、後一曲足りない。そこで1曲譲ってくれないかという。    「虫のいい話ナンスけど、お願いします。デビューがかかってるんす」 深々と頭を下げるポトフ。 するとセニョはポトフの元に駆け寄り肩を抱きこう言った。    「大丈夫よ、心配しないで。困った時はお互い様。それにポトフさん、あなた達、運がいいわよ。今出来たての新曲があるの、ネッいいでしょ、ヘンテ」   セニョは「内面の輝き」を歌う事が回避出来ると思って必死になる。    「折角創ったお気に入りなんだぞ」と渋るヘンテ。    「お願いします。この恩は必ず返します」 ボトフは必死に頭を下げる。    「いいじゃないかヘンテ、お前の才能なら、また幾らでも創れるだろう」 セニョの気持ちを組んだのかプラさんが言う。  「わかっよ、ボトフ。持ってけ泥棒」  斯くして交渉は成立した。  色々、スッタモンダあったが、実際ポトフ達はデビューする事になる。   驚いた事に、あの「内面の輝き」を社長さんが、気に入ってくれたという。 奇跡だ。 しかし残念な事もある。 ポトフ達は、ロックバンドからコミックバンドに変身した。   バンド名も、「ザ・カウンタックス」から「はばかりながらヘッポコス」に変わった。  未だにメディアで見かけることはない。 次回 「セニョ探偵登場」  
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