謎のオッサン

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謎のオッサン

いつもの「蟻の門渡り」で、いつものメンバーが暇な1日を過ごしている。   セニョが、カウンターの端でペンを走らせ、創作活動をしているヘンテの後ろから、コッソリ覗き込む。 作詞を考えている様だ。         仮題 恋の南京玉すだれ  恋、恋、恋の南京玉すだれ 恋のやまいに   一度かかれば 直ぐにあなたは天国に−−−−  セニョは後ろから頭をひっぱたいてやろうと思ったが、必死に堪えて見てない事にすると決めた。  暫くすると、店の扉が開く。風采の上がらない中年のオッサンが入ってきた。     「申し訳ないが、うちの店は夜の7時から何だけど」インタが言う。     「わかってます。実は私、皆さんにお願いがあって伺いました」     「アンタいったいナニモノなんだ」インタが聞くと、   申し遅れましたこういう者ですと、皆に名刺を配って歩く。    名刺には、聞き慣れない会社の名前と代表取締役 金田麻反喜(かねだまたよし)と書いてある。    「へーアンタ社長さんなんだ」とプラさんが言うと同時に、ヘンテが突然立ち上がった。    「この人凄い、上から読んでも下から読んでも、キンタマタンキと読める」    「ちょっとヘンテ、ゴメンナサイ変な事言って」とセニョが頭を下げる。    「いえ別にいいんです。そんなこと言われたのは小学校以来で懐かしかったです」    「それで、その社長さんが何のお願いがあるってんの」ブラさんが問う。    「実はもう私はもう社長じゃないんです。昨年会社はたたみました」     「それじゃ今何を」    「今は無職です。会社たたみました。ソコソコ蓄えもできましたので、それで何とかやってます」    「それで?」    「私を皆さんの仲間に加えて貰えないでしょうか」  一堂、唖然となる。   アライグマがスカンクにガスを喰らったような顔だ。   「 実は私、あなた達とカウンタックさんとの対バンを観たんです」 インタ「あのウルトラスーパーデラックススペシャルのカスタムホールでおこなわれた伝説の対バンをか」 セニョ「キャパが80人のホールね」 ヘンテ「そのうち5分の3がカウンタックのファンね」 カンタ「ペットボトルの投げ込まれた数40本の記録を作った時ね」 プラさん「ある意味伝説の対バンね」    「そうです。あのとき私は、感動しました」更に続ける。    「ギターのお二人の黒板を爪で引っ掻いたような音色、ベースの方のエアギターを弾いてる様な佇まい、連打が不得意とすぐに分かる軽低音のドラムスの響き」    「アンタ、俺たちをバカにしてるだろう」 とヘン手が声を荒げるが、他の者の顔はキョトンとしている。    「そんなことはありません。それになんと言っても、セニョさんの透き通った何処までも届くような美しい声、誰とも似ていない個性的な声質」セニョに近寄り優しく微笑む。    「この人良く分かってる」セニョは頷いた。    「私は、あの時に思いました。貴方たち程音楽を楽しんでる人達はいないと、何かお手伝いをしたい、その仲間に入れたらと」    「気持ちは嬉しいが、キンタマタンキ君」    「カネダマタヨシです」    「金田君、残念ながら私達のバンドは開店休業中みたいなもんだし、人は事足りているんだ」   金田の頼みも無碍に断わるインタ。 当然だそんな余裕はないし、どこの誰とも分からないオッサンを仲間に入れるわけにはいかない。    「私は楽器を弾けるわけでもないから、マネージャーとして使ってくれませんか」    「申し訳ないが、今回は諦めてくれ」インタが肩をポンと叩く。    「これではどうでしょう。もしよければこの店のお手伝いをさせて貰えませんか。バイト代をくれとは言いません。皆さんと仲良く出来れば」    あまりにも必死な金田の頼みに考え込んでしまうインタ。    「皆んなどう思う」    「お前の店だ、自分で決めな」とプラさん。    「タダ働きでいいってんなら別にいいじゃねぇか」とヘンテ。    「俺は別にどっちでもいいけどセニョはどうなんだ」とセニョにふる。     「私はオッサン4人が5人になっても、どうってことないけどインタは助かるんじゃない。最近、二日酔いも酷いから」   少し考えた後インタは決断した。     「わかった、採用する事にしよう。だが俺も男の末席に座っている。タダ働きをさせる気はない。だが雀の涙の中の細菌ぐらいのギャラだと思ってくれ」     「本当ですか、ありがとうございます。一生懸命頑張ります」金田はヨロシクお願いしますと、一人一人に握手を求め挨拶をする。     「話が決まったからには、俺がお前にあだ名をつける。これは決まり事だ」インタが嬉しそうに言った。     「あだ名なら昔の友人が付けた物がありますが」     「なんてあだ名だ?」     「イナカップリーです」     「何じゃそりゃー、どうしてそうなった」     「セニョさんもいるんで恥ずかしいけど、自分を知ってもらう為にお話します」    金田は、あだ名の謂れを話しだした。 金田のあだ名の謂れを聞いた男達は、大笑いしている。 セニョは顔を赤らめ呆れている。   「ちょっと私まだ未成年なんですけど」と顔を膨らます。    イナカップリー誕生の秘話はこうだ。 彼が大学生の20歳の誕生日に、先輩がストリップに連れて行ってもらった時の事である。 舞台で演じる踊り子に、舞台に上げられた。 当時、童貞だった金田は、踊り子に弄ばれ続けたとき、突如興奮が極値に達し、突然イナカップリーと叫んで、踊り子のお尻を叩いてしまった。   小学生の頃に半ズボンの男同士でイナカップリーと叫んで太ももを叩き、赤い手形を付ける遊びが流行ったのだという。 急に記憶が蘇り、お尻を叩きながら叫んでしまったのだ。。   当然、踊り子に切れられ、頬にビンタを喰らい、劇場は大笑いに包まれた。   それ以来、学生仲間からイナカップリーと呼ばれるようになったという、とんでもない逸話を持った男である。    上から読んでも下から読んでもキンタマタンキ金田麻反喜がイナカップリーに変身した物語であった。 この後皆から、縮めてイナちゃんと呼ばれるようになった。   オジサンがまた一人増えてしまった。 次回 [白尻姫]
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