ワードチョイス カラオケ

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ワードチョイス カラオケ

 店の扉が開くと、セニョが大きな箱を抱えて入ってきた。 ヨイショといって、荷物をテーブルの上に置く。 いつもの仲間の目がその箱に集中する。   「何が入ってるんですか?」イナちゃんが聞いた。   「レンシレンヂ」と言って箱を開け、中身を取り出す。   「インタ、レンシレンヂの調子が悪いって言ってたでしょう。コレあげる」   「あげるって、コレわざわざ買ってきたのか?」   インタが戸惑ったように聞いた。   「違うの。バイト先の店長が、商店街の催し物でカラオケ大会があって、そこに出てくれって言われたの」 セニョは商店街のパン屋でバイトをしている。 「当然、優勝したんだろう」   「そうなの。その優勝商品」   「流石だな。そのうちカラオケ大会荒らしっていわれるぜ」 とヘンテは言いながらレンジの品定めをしている。   「どうして自分の家で使わない」とプラさんが聞くと。   「最近姉さんが、買い直したばっかりなの、これより高性能なやつ」 姉さんとは、セニョが仮住まいさせてもらっているイトコの事だ。 そこでインタが財布から3千円を取り出し、セニョの手に握らせた。   「17歳の娘からただで、物をもらう訳にはいかない。とっとけ」   「いらない」 そう言ってカウンターに3千円を置く。 インタは、それを取りもう一度、紙幣を二つに折ると、セニョの胸のポケットに差し込む。   「セニョ、貰っておけよ、そうしないと俺が貰う事になるぞ」 ヘンテが訳の分からないことをいう。 セニョは少し考えて   「分かった。じゃあこうしよう、今からカラオケ大会しよう。ワードチョイス カラオケ」   「ワードチョイス カラオケ?」皆で合唱した。  ワードチョイス カラオケとは、それぞれが歌う曲を選曲して紙に書くいて、伏せておく。 そして別の用紙に何でもいいから言葉を書く。 例えば、あなた、君、今日、瞳などと書いて、箱の中に入れる。 当然他の者が何を書いたかは分からない。 これで準備はオッケーだ。 そして、選曲したを歌う前に、箱の中から用紙を一枚引く。   引いた用紙に書いてあるワードが歌詞の中に一言あったら百円、2つあったら2百円という様に支払わなければならない。   「面白いな、やろうぜ」ヘンテは乗り気だ。   「それで集まった金はどうする」カンタが尋ねると   「カラオケ代よ。店の収入」セニョが言うと言下にプラさんが   「なるほどね、それならレンジを皆で寄付したような感じになるって訳だ   「まあ硬いことは考えないで遊び気分でやりましょう」 セニョはバッグから英語の単語帳を皆に2枚ずつ配った。 選曲した紙をインタに渡し、ワードを書いた紙は、レンジが入っていた箱に投げ込まれた。   「じゃあ、言い出しっぺの私から行くわね」 セニョが箱の中に手を入れ一枚取り出す。 引いたワードは、私 だった。 インタがカラオケを入れる。 曲は中島みゆきの「糸」だ。 セニョが歌い出す。 いつもは、セニョの歌に聞き入るはずが、今はモニター画面の歌詞を食い入るように見つめていた。 セニョ歌詞歌い終える。   「結構あっみたいだけど」   「全部で5個だったと思います」 イナちゃんが言うと、皆が間違いないと確認した。   「それじゃ500円いただきま〜す。この中にお入れ下さ〜い」 インタが、笑顔ですり寄っていく。 セニョは自分から言い出したものの、インタのニヤケ顔を見ると、何だか腹ただしくなってきた。   「次は俺にいかしてくれ」 カンタが箱に手を入れる。 手に取った紙を皆に見せる。 人 と書いてある。 曲がかかる。 ミスチルのトゥモローネバーノウズだ。 当然、誰も歌は聞いていない。 画面を監視している。 500円が入ったグラスを持った、インタが近寄る。   「300円な〜リ〜」   「300円か、ぎりぎりセーフって感じだな」 カンタはポケットから300円を取り出すと、グラスにチャリンと響かせた。   「よし次は俺だ」 ヘンテは腕をまくって箱から取り出した用紙を見つめた。 ヘンデが固まっている。   「ヘンテさんどうしました」 イナちゃんが声をかけるが、何も言わない。   「どうしたヘンテ、早く発表しろよ」 プラさんが急かすようにいう。   「俺は歌わない。絶対に歌わない。何が何でも歌わない。歌うもんか、死んでも歌うもんか。これば、陰謀だ〜」 ヘンテは用紙を握りつぶすと床に叩きつけ、歌わないぞ〜と叫びながら店を出ていった。 どうしたのヘンテ? とセニョが潰された用紙を拾い広げてみると、そこには、BABY と書いてある。 ナルホドなとインタが言いながら、曲をかける。 スピーカーから布袋寅泰の スリル が流れてきた。 あの江頭2:50の登場曲である。 BABY、BABY、BABY、BABY、BABY、BABY−−−−   「これいくつ  BABY が出てくるんだ」カンタがイナちゃんに尋ねる。   「あまりにも多くて数え切れません。多分百は超えるでしょう」 店の中にスリルの曲が流れ続けた。 インタの顔だけがニヤけている。 次回 [セニョ探偵 再登場]   
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