第3章 何よりまずこいつを何とか排除しなきゃ。と心に誓う。

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第3章 何よりまずこいつを何とか排除しなきゃ。と心に誓う。

目を見開いてどん引きで後退る、って大概な反応を見せた割には潮さんの説明は歯にものが挟まったようでどうにもはっきりしなかった。 「うーん、…何なのかなぁ、これ。なんかすっごい強いことはわかる。あんまりこういうの見たことない。なんか、生々しいんだよね。…死んでからほとんど間がないとかなのかなぁ?」 彼女は最初の驚愕が過ぎ去ったあとやや落ち着きを見せて、しきりに首を捻って考察しながらわたしの背後を窺うようにずっと観察してるけど。 こっちはつくづくと眺め回されながら何ともいたたまれない気分としか。なんていうか、背中にべったり大っきな虫が張り付いてるよ。と教えられたまま誰も取ってくれず遠巻きにされてる感じ。 指摘するなら責任取って最後まで面倒みてほしいもんだ。少なくともそれ、取るのに協力はしてくれるんだよ、…ね? 「て、ことは。…やっぱ、人間?の、霊。…ですよね。それ」 恐るおそる確かめる。っていうのは、ここに来てからの間に得た知識として、霊的なものにはもともと人じゃないのがあるって知ったから。 潮さんはよく(お客さんや家主さんの前ではさすがに口にしないけど) 「あそこのは『人』じゃないからね。そう簡単には触れない。あんたのパワーでも飛ばすのは無理だね」 とか、 「なんだろ、人みたいに見えるけど。『人じゃない』のがいっぱいいる。これは気持ち悪いなぁ、元はどういう場所だったんだろね?」 とか所見を述べることがある。 どうにも表現がわかりにくいのは、見えはするけど霊的なことに関心が強いわけじゃないからか、特に誰かに教えを受けたり本やネットで勉強したりした経験がないのらしいので。おそらく彼女が直感的に感じるものをそのまま自分流に描写するとああいうことになるらしい。 「弾き飛ばせない、人じゃないものって何ですか?あと気持ち悪いのがわさわさいる『人型だけど人霊じゃない』ものって?」 意味がはっきりしなくてもやもやしてるのが気持ち悪くなり、結局たまりかねて折をみてまとめて尋ねると彼女は別に何ということもないけど。といった顔つきでけろりと自分なりの表現で説明はしてくれた。 「あー、『人じゃない』って同じ言葉使っちゃったけど。前のと後のは全然違う。葉波の力で弾き飛ばせないって言ったやつはつまり自然のものだから。地形とか、本来の土地の力とかに由来するもんは一人の人間のパワーでどうこうはできないよ、そりゃ」 「そういうのが住んでる人間に障ることもあるのか…」 思わず首を縮めた。想像するだに、ただの人霊よかそっちの方が恐ろしい。そんなのにうっかり当たりたくはないな。まあ、反対にすごくいいパワーを得られることもあるんだろうけど。 「人みたいな形をしてても人霊じゃない、って言ったのは。なんていうのかなぁ、多分昔の見えてた人は。あれを『妖怪』って言ったんじゃないの?これは人間の霊と同じで強いのも弱いのもいるし、害のないのも悪いのもいる。まあ普通に吹き飛ばして問題ないよ。ちゃっちゃとスイープしちゃって、いつも通り」 お気楽な口調に思わずこっちは口許を曲げる。 「うーん…、別に普段もGOサインが出たから飛ばしてるわけでは。どのみち、無意識にしかできないことなので」 潮さんはあはは、と無責任に明るく笑って片付けた。 「そういやそうだったね。言うだけ無駄だったか」 そんなやり取りが過去にあったから、亡くなった人の魂だけが霊として影響するわけじゃないらしい。くらいのことは一応承知してる。 だけど、これまでにないことだがいざ自分の背中にべったり何かが貼りついてるとか指摘されると。できたらそれが人間じゃない方がいいなあって思わずにはいられない。 だって、それが男でも女でも、若くても年配の人でも。…誰か見えない他人が自分のそばにぴったりくっついて離れないってだけでもう。…どう考えても気色悪いよ? 大いなる自然のパワーがあなたの背中に乗っています、とか。誰かがきっぱりそう断言してくれたらその方がどんなにいいか…。 案じた通り、潮さんは無情にも彼女の感知したものをそのまま口にした。わたしがどう受け止めるかまではいちいち忖度しない。ある意味ぶれない人だ。別に褒めてるわけじゃないが。 「人間なことは間違いないと思う。…これ、死にたてほやほやかな?なんかやたらくっきりと濃くて強いの。すごいなこの子。…どうやってこんな風に、よりによってあんたにぴったりくっついていられるんだろ?何か特別な霊なのかな?」 この子、ってことは結構若いのか。少なくとも潮さん本人よりは若そうだ。彼女の正確な歳は未だに把握してないわたしだが。 ていうか大まかな年頃もわからない。思えば実に年齢不詳なひとだ。 まあとにかく、大概な年寄りっていうか年配の者でないことはわかった。流れで、そいつは男ですか女ですか。と尋ねかけてちょっと躊躇する。 それを知っても、どうせ潮さんはその人を除霊も浄霊もできないんだよね。
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