48人が本棚に入れています
本棚に追加
「目障りな陽がなくて、雑音がない。先輩の隣に居るだけで、落ち着くんです」
まるで目の前にある綺麗な花を愛でるように、柔らかそうな頬を綻ばせる夕里。
「……暗くて、そんなに喋らないって言いたいのか」
「うーん。オブラートに包んだつもりだったんですけど」
てへ、と俺の顔を見て笑った。
それで俺も口角を上げてしまう。
「夕里は……夕方だな」
迷ったけど、思ったことをそのまま言ってみた。
「それって名前に〝夕〟が入ってるからですか? なんか適当に言ってません?」
「ちげーよ」
再び夕焼け空を見上げる。
水彩絵の具で描いたような、淡いグラデーション。はっきりとしない境目。
「よく分からないから」言って、すぐにコホンと咳をして付け足した。「昼みたいだと思ったけど、そんなに明るくもないよな。夜みたいに暗くもないけど。……朝みたいに爽やかでもない」
「消去法ですか」
「まぁ……そうだな」
本当はもっと、違う理由だけれど。それは口にするべき事でもないと思った。
「そういう意味で良かった」
少し低くなった夕里の声にハッとし、顔を見ると、すぐに目が合った。
にこっと。犬みたいな笑顔じゃなくて、許すようにそうする。
いつの間にか、辺りが暗くなり始めていた。
「もうすぐ先輩になりますね」
自転車を止めて、じゃあ、また、と言い合って別れる。
この橋はこわれています。渡ってはいけません。と書かれた看板の前で。
最初のコメントを投稿しよう!