あの子は夕方みたい

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「目障りな陽がなくて、雑音がない。先輩の隣に居るだけで、落ち着くんです」  まるで目の前にある綺麗な花を愛でるように、柔らかそうな頬を綻ばせる夕里。 「……暗くて、そんなに喋らないって言いたいのか」 「うーん。オブラートに包んだつもりだったんですけど」  てへ、と俺の顔を見て笑った。  それで俺も口角を上げてしまう。 「夕里は……夕方だな」  迷ったけど、思ったことをそのまま言ってみた。 「それって名前に〝夕〟が入ってるからですか? なんか適当に言ってません?」 「ちげーよ」  再び夕焼け空を見上げる。  水彩絵の具で描いたような、淡いグラデーション。はっきりとしない境目。 「よく分からないから」言って、すぐにコホンと咳をして付け足した。「昼みたいだと思ったけど、そんなに明るくもないよな。夜みたいに暗くもないけど。……朝みたいに爽やかでもない」 「消去法ですか」 「まぁ……そうだな」  本当はもっと、違う理由だけれど。それは口にするべき事でもないと思った。 「そういう意味で良かった」  少し低くなった夕里の声にハッとし、顔を見ると、すぐに目が合った。  にこっと。犬みたいな笑顔じゃなくて、許すようにそうする。  いつの間にか、辺りが暗くなり始めていた。 「もうすぐ先輩になりますね」  自転車を止めて、じゃあ、また、と言い合って別れる。  この橋はこわれています。渡ってはいけません。と書かれた看板の前で。
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