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「今日も来てんぞ、夕里ちゃん」
部室を出ると、早速からかわれた。汗で濡れたままにしておいた額を、夕里に貰ったタオルで拭く。
「相変わらず可愛いねー」
薄笑いし、夕里と俺の顔を交互に見られる。
何なんだよ、もう。何を期待してるんだよ、お前らは。
「可愛い、だって。照れる」
小さな声で、俺だけを見上げ、えへへ、と笑う夕里。
また耳を確認されないよう、頭を搔くフリをして防いだ。
「……よく飽きないよな、俺に」
いつもの帰り道。隣で笑う夕里につい零す。一緒にいても面白くないだろ、こんな奴。
「先輩こそよく飽きませんね」
「ん?」
また間髪入れずに聞き返してしまった。
夕里は、そんな俺を見上げ、ふふ、と口元に手を当てる。
「何回好意の確認したら気が済むんですか。こんなに好きって表してるのに」
なにも言い返さない俺に、如何にも全部分かってますよ、みたいな表情をして、じっと見つめてくる。
「欲しがりさんですね、先輩」
「ちげーよ!」
あははっ、と夕里が声を上げる。
幸せそうに、ひとりでツボっていた。
「本当は、きっかけが欲しいんじゃないんですか? 素直に認めるきっかけが」
言って、駆け足で自転車を押し、俺の前を行く。
そんな夕里をオレンジの光をバックに見ながら、ため息を吐いた。
「俺が惚れてる前提なんだな」
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