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「古夜せ~んぱいっ」
振り返らなくても分かる、聞き慣れた声。
額に汗をかいたまま目を遣ると、やっぱり、ワンコみたいな笑顔でひょこっと壁から顔を出していた。柔らかそうな薄茶色の髪に色白の丸顔は、なんとなくシーズー犬を連想させる。
「……夕里」
くすくす、と部活仲間の笑い声がする。それもそうだ。恋人でもないのに、いつも夕里は部活終わりに俺を迎えに来るのだから。わざわざ部室まで、飼い主の帰りを待つ犬みたいに。
尻尾振ってそうな勢いでスキップして来た夕里は、俺だけに両手でタオルを渡す。
「今日もお疲れさまです」
小さな唇をきゅっと結んで上げ、つぶらな瞳で見上げてくる。
「……ありがとう」
顔に当てたタオルからは、ふわっと花の香りがした。
初めはもちろん丁重に断っていたけど、夕里が「遠慮しないでください」と言って渡し続けてくれるので、最近は敢えてあまり汗を拭かずに部室を出ることにしているのだ。
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