殺したくない2

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殺したくない2

 何事もなく。あれ……夢だったんだろうか。 「よう。何幽霊見たような顔してんだよ」  次の日、教室に入ってきたあいつは、手を上げて俺にそう笑いかけた。俺はきょろきょろと周りを見回したが、誰も不思議がっているやつはいない。  俺は心の底からホッとした。しかし夢でなかった証拠に、あの石はまだ俺の手元に残っていた。でもあいつはクラスメートのまま一緒に卒業し、同じ中学に進学した。  あいつは頭がいいくせにがり勉でもなく気さくで相談に乗るのがうまくて、誰にでも快く接した。だから、勉強を教わって成績が上がった奴もいれば、友達同士の悩みごとが解決して不登校が治った奴もいる。頼りになる人気者だった。  でも俺は、もうあいつを気にせず、マイペースで行こうと決めた。うらやましいと思ってはいけません――嫌いだったあの担任の、棒読み言葉が頭に刻まれていた。 「文化祭の出し物ですけど」  委員が困っていた。あいつのようにはできないけど、マイペースで役に立とう。俺は手を挙げて助け舟を出した。 「喫茶はどうですか。可愛いミニスカとかのメイドさんで」  しかし、一斉にブーイングが上がった。めんどくさいの、食べ物は許可がうるさいの、女子のミニスカは男女差別だの。 「……取り下げます」  俺は息をついて席に座った。が。 「何で? みんなでお店やるのって楽しそうじゃない。家が食堂とか八百屋さんの奴いるよな。ご両親にいろいろ話聞きに行ってさ」  あいつが言った。ニコニコと柔らかい声で。すると、「さんせーい!」と一人の手が挙がる。「そうだな、いいかも」「考えてみたらミニスカじゃなくて執事カフェってのもありかもね」などと、みなが一斉に賛同に傾いた。  そうしてクラスは和気あいあいと盛り上がったが……俺は一人、その雰囲気に入れずにいた。同じことを言っても俺は否定され、あいつは受け入れられる。  人望――その天性の違い。  将来は会社興して社長になりたいな。そんなことを言っていたあいつ。そんなリーダーの素質は申し分ない。  それから毎日、クラスはあれやこれやと喫茶の準備に盛り上がった。俺はそれを尻目に黙って教室を後にする。誰も気づきもしない。その存在感のなさ。みじめさが足取りを速くした。 「待てよ」  怒ったような声が追ってきた。振り返らなくてもあいつだとわかる。俺は足を速めた。 「待てってば。なあお前も――」  俺は振り切るように急いで赤信号になるぎりぎりで道路を渡った。このまま逃げ切ってやる。そう思った瞬間。  どかんと派手な音がした。そして急ブレーキ。数人の悲鳴。  俺はようやく振り返った。斜めにガードレールに突っ込んだ車の横で、あいつが倒れていた。アスファルトに猛烈な勢いで血が広がっていった。  もううらやまない。そう決めたはずだったのに。  俺は急いで家に帰った。押入れを引っ掻き回し、奥の奥に封印してあったあれを取り出した。  頼む、もう一度だけ。もう二度と。二度とうらやんだりしないから。俺にあいつを殺させないで――。  その石は、星空のような断面から、白い光を放った。
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