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「あ…あの…さっきの、お兄さん…ですか……?」
私が恐る恐る聞くと、少し明るい声が返ってきた。
『あ、やっぱりさっきの。でも、なんで…』
「妹に…家に掛けたんです……でもなぜか繋がらなくて、そのままお兄さんに…きさらぎさんに繋がって……」
『…。』
きさらぎさんは黙ってしまった。
「本当なんです…!!お兄さんの番号なんて知らないし、それなのに…!!」
『…ああ、ごめんね?そうじゃないんだ。なんだか周りの雰囲気が変だからね、そんなことも起きるのかと思って…。疑ったんじゃないよ。不安にさせちゃったんだね、ごめん。』
「い、いいえ……」
少し明るめのきさらぎさんの声に、少しだけ安心する。
私は分かってもらえたことが嬉しくて、涙が出そうになった。
『君は電話の他に、何か変なことが起きたり、誰かに何かされたりはしてない?』
「いえ…でも、周りの人、みんな変なんです…。ロボットみたいで、表情が変わらないし、声も出さないし、周りからは足音しか……」
『僕もね、さっきの店の人に声を掛けたんだけど反応が無くてね。客らしい人達も、何も買わずに店の中を行き来するばかりで、気味が悪くて…。』
きさらぎさんはため息をついてから、続けて私に言った。
『早く合流したほうが良さそうだ。壁みたいなものがあるからすぐに行けなくてね。無いところを探して、そっちに行くよ。』
向こうではもう言いながら歩き始めたらしかった。
「壁!?お兄さんのところも…!?」
『やっぱり。こっちに来ようとしてたのは見えたからね。…一筋縄じゃ、いかないかもな……』
「え…」
『君は今どんな所にいるのかな…?君の姿は今、ここからは見えないから。』
「え?え〜と…」
私は周りを見渡した。
近くには大きなパチンコ屋さんがある。
「あ、近くにパチンコ屋さんがあります…大きな看板もあって…」
私はなるべく詳しく周りにあるものと特徴を伝えた。
『分かった!その場所から動かないでね?電話の電池は大丈夫?繋げっぱなしにしておくよ。』
「はい、分かりました…!」
私は急いでマイク付きのイヤホンを差し、持っていた充電器とこの携帯の電池を確認した。
(一人じゃなくてよかった…!あとは早く会えて、二人でここを出られるといいけど…)
こんな変な場所で一人きりだったら、きっと私は家に帰れないままだ。
男の人がいてくれて、とても心強く感じた。
『そうだ。僕のことは如月でいいよ。で、名前、じゃなくて良いけど、君のことはなんて呼んだら良いかな?』
「え??あ、実花です。」
『ミカちゃん。じゃあ、ここに来たときのことを教えてくれる?きっかけがあってここに迷い込んだのかもしれないから。…僕はこの近くで、仕事を一緒にする人と来週会うことになっていたから、下調べで来ていたんだ。』
「え、えっと私は、知り合いのやっている店に一人で行こうとして、迷ってしまって…」
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