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第5話
ある冬の日、
彼は寂しそうな背中を見せていた。
何かあったのだろうか?
私は久しぶりに声をかけることにした。
「よう、どうしたの?」
振り返った彼は、今にも泣き出しそうだった。
ちょっと口喧嘩したんだって。
……私は胸をなで下ろした。
良かったね、イジメにあった訳じゃなかったんだ。
でも、君は何も言わず、首を横に振った。
なんでだろう、私は疑問に思うしかなかった。
彼が理由を明かしてくれた。
「あいつが嘘をついたんだ、それが嫌だったんだ」
そうなんだ……。
でも、誰だって嘘を付くよねえ。
私はそう言おうと思ったけれど、彼の重たいため息に口にするのをためらった。
……私達はお互いに言葉を失った。
「よしよし、明日には仲直りできますように!」
私は割と差し当たりのない言葉で締めくくろうとした。
単純だけど、しばらくすれば気分が落ち着くと思うんだよ、こんな意味を込めてみた。
……でも、彼は細い目で私のことをにらんできたんだ。
彼の台詞に私は少しの恐怖を覚えた。
「そんなシンプルな言葉で丸めこもうと思うなよ。
中学の担任と一緒じゃあないか!」
君なら、分かってくれると思ったのに……。
彼はそう言ってしまうと、独りで歩いて行ってしまった。
私はいつまでも言葉が出てこず、その場に立ち尽くしていた。
・・・
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