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「知ってる? 妖怪カベドン女。昨夜三丁目にまた出たんだって」
「マジで?! 超ヤベエ、近いじゃん、すぐそこじゃん!!」
「段々近づいてきてね?」
「ちょ、オレ今日は早めに帰ろう」
「そういえば、男版の……」
……誰もお前みたいな男には近寄りやしないだろう、鏡を見たことがあるのか?
妖怪カベドン女はイケメン好きだぞ? 選ぶ権利はカベドンにあるだろう。
聞こえてきた自惚れに呆れため息をつきながらも、目と指は一心不乱にパソコンに集中。
定時までにはきっかりしっかり間違いなく終えるのが私の使命。
正確無比、謹厳実直、四角四面などなど、私を表すために形容する言葉を並べたらおわかりになるように。
私こそがこの会社の経理女子を元締める、茂ば、
ドンッと背中を押されてキーボードを押し込んでしまうと。
数字の欄が何故か【チチチチチチチチチ】と無限の半角カタカナに侵された。
最初からやり直しになった怒りに任せて背中にぶつかってきたヤツを振り返ると。
さっきの妖怪カベドン女の話をしていた男たちが、「ごめんね」と引き攣り笑いをして去って行きながら。
「やっば、モバさんにぶつかっちゃった」
「モバさんじゃねえってモブさんだって、超怒ってたじゃん、多分。あんまり顔変わんないけど」
モバさんでもモブさんでもない、私の名前は茂原要、ちなみに今はかなりムッとしている。
牛乳瓶のような厚底眼鏡に長い髪はきっちりと一つに纏め、必要最低限の化粧しかしない私は無表情で何を考えているかわからない人と周囲は認識しているだろう。
仕事が正確で早いだけが取柄の私は茂原さんではなく、影でモブ扱いのモブさんと呼ばれている。
モブさんじゃねえ、茂原さんと呼べ! 腹の底ではこんな感じである。
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