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『……け、圭多、痴漢だ。翔平くんがいたら怖がって触らないんだろう』
奏多は可愛い甥から話を聞きだし、痴漢だと判断した。
今日、圭多と小学校一年生の時から仲のいい里見翔平は、バスケットボール部の朝練習でいない。
奏多にとって圭多はたったひとりの姉がこの世に残した宝物だ。保護者として、圭多をひとりで乗車させるわけにはいかなかった。意を決し、今朝、高校に向かう圭多とともに竜宮城を模したような片瀬江ノ島駅から電車に乗り込んだ。それなのに、奏多の身に災難が。
「奏多ちゃん、降りようか?」
圭多の視線の先は奏多の背後にぴったりと張りついている背の高い男だ。痴漢だと目星をつけたらしい。
「ここで降りたら遅刻するだろ」
臀部をいやらしく撫で回され、奏多は背後の男が痴漢だと気づいたが、そんなことに構ってはいられない。圭多が無事なら、それでいいのだ。自分の痴漢ぐらいで、圭多を遅刻させたくない。
「降りよう」
圭多は大きな目を揺らしたが、奏多は頬を染めて言い返した。
「遅刻するから駄目だ」
圭多の高校がある藤沢駅までもうすぐだ。
「奏多ちゃん、痴漢に遭っている」
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