江の島ローランサン~君を乗せる舟になる~

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 圭多はとうとうズバリと指摘したが、奏多は股間にまで伸びてきた手を完全に無視した。 「……圭多が無事ならいい」 「僕より奏多ちゃんのほうが危険だよ。降りよう」  圭多が目を吊り上げた時、アナウンスとともにドアが開いた。奏多は圭多に手を引っ張られ、プラットホームに下りる。  けれど、奏多に張りついていた痴漢も一緒に下りた。  奏多がさりげなく背後を振り返ると、まだ若い長身の男が立っている。彼がずっと電車の中で触っていた男だ。スーツ姿だがサラリーマンには見えない。青年実業家風の男、と奏多は作家の目で推測した。 「三万円でどうかな?」  こともあろうに、青年実業家風の男に援助交際を持ちかけられた。実は奏多にこの手の話は気が遠くなるぐらい多い。不景気なのに気前のいいことだ、なんて変なところで感心してしまった。 「……っ……こ、断ります」  奏多は掠れた声で拒絶したが、青年実業家風の男は怯まなかった。 「五万でどうですか?」  青年実業家風の男が値段を吊り上げたので、奏多は圭多の手を握ったまま後退した。 「……そ、そういうんじゃありません。……あの、僕は男ですよ」
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