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女と間違えているのかな、と奏多は若干の期待を持っていた。女性と間違えられていた場合、あっさりと引いてくれるからだ。
「……男なのか?」
触っていても奏多の性別に気づかなかったらしく、青年実業家風の男は驚愕で上体を揺らした。
「見てわかりませんか?」
「見てもわからない」
青年実業家風の男に断言された通り、奏多は容姿に関して男らしい自信はない。子供の頃からさんざんいじめられた最大の要因だ。
「出勤前でしょう。ここでこんなことをしている場合じゃないはず」
奏多は圭多と手を繋いだまま立ち去ろうとしたが、青年実業家風の男は執拗に追ってきた。
「男でもそれだけ可愛かったらいい。五万円に食事もつける。首相行きつけのダイニングバー・皐月を知っているかい? 僕は赤坂店の常連だけど、皐月に連れて行ってあげるよ」
ダイニングバー・皐月とはメディアでも頻繁に取り上げられ、予約が取れないと評判の高級店だ。絶品の料理もさることながらカクテルや店内のムード、すべてにおいて格が違うと絶賛されている。
「犯罪ですよ」
「僕は君に誘われた。犯罪じゃない」
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