蜃気楼

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車を降りて足を地につける。崖近くの平地を歩いてみると、あの日の思い出がよみがえってきた。 「悪いな、運転疲れなかったか?」 俺の横で背伸びをして身体を解している別府(べっぷ)を労うと、別府はこちらを見て少し笑った。 「いいって。お前、まだ免許取ったばっかだろ?」 軽く馬鹿にしたような笑みを向けられて悔しくなったが、何も言い返せない。実際免許を取得してから二週間と経っていない上に、まだプライベートで一度も運転をしていないからだ。 「冗談だよ。一時間の運転なんて、毎日の通学と変わらない。」 「そういってくれると助かる。代わりと言っちゃなんだが、帰りに何か奢るよ。」 そう言うと別府は小さく笑った。 「お!(れん)がおごるなんて珍しいこともあるもんだ。」 「何回かおごってるだろ。」 俺は別府の方へ歩いてゆき、からかってくる別府の腹を軽くどつく。 別府が俺に車のキーを渡してきた。 「蓮が持っておいてくれ。」 俺はそれを受け取り、ポケットへ入れた。別府はここに来る前のパーキングエリアで、鍵を落とした。すぐに見つかったが、自分で持っておくことを不安に思ったのだろう。 「悪かったな。俺のわがままでこんなところに連れてきて。」 別府が俺の横に立つ。今日はある場所へ向かう途中だったのだが、別府の希望で、この何もない山奥にくることになった。 「いいって。俺も久々に来たかったし。」 「ありがとう。それにしても、懐かしいな。」 別府が辺りを見渡す。俺も同じように見渡した。 今日はひどく暑い。周りの景色がゆらゆらとして見えた。今は何もない荒地になっているが、あの時はまだ草が生い茂っていたなと、俺は思い返した。
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