蜃気楼

6/7
前へ
/7ページ
次へ
ふっと、別府の肩をつかんでいた感触がなくなった。 ほんの一瞬のことだったと思う。視界も戻っていった。目の前は崖。自分が今にも落ちそうな位置にいることに気づき、焦って三、四歩後ろへ下がる。まさかと思い、おそるおそる崖の下をのぞくと、遥か下の岩の山にたたきつけられて倒れている別府の姿を見つけた。 俺が、突き落としたのだ。さっきの俺の腕をつかんだいくつもの手は、なんだったのだろうか。蜃気楼が見せた悪夢か。それともあの蜃気楼は、俺の殺意の現れだったのだろうか。俺は最初から別府を殺すつもりだったのか。自問自答を繰り返したが、頭は混乱するばかりだった。 鼓動が早くなる。俺は別府を殺してしまった。その事実だけは理解が追いついた。 とりあえず車に戻る。 頭を冷やそう。そして考えよう。これからどうすべきかを。幸い、車のキーはもらっている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加