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奇術師と泥棒
「ハァ、ハァ、ハァ…… 」
阿倍野雷は息を切らしながらも全力で走っていた。
漆黒のポンチョにフードを被り、ガスマスクを付け血の滴った大釜を持った男が背後から追い掛けてくるからだ。
闇に溶け込むその姿は死神のようで、振り返れば一気に追い付かれる気がして、前だけを見て全力で走る。
広いグラウンドを抜けると、大量の杉が並んでいるその奥に、コンクリートで固められた無機質で頑丈な建物を見つけた。
「あそこに…… 」
残った力を振り絞ってスピードを上げる。
建物に到着して扉の前に立つと、
「ちっ、ここまでするか普通」
取手の部分には丈夫な鎖が何重にも巻かれ、大きな鍵穴のついた南京錠が取り付けられていた。
雷はカーゴパンツの腿横ポケットのファスナーを素早く開け、中から細い二本の針金のようなものを取り出し、鍵穴に突っ込んで両親指と人差し指でコチョコチョと動かす。
カチリと音がした南京錠を外して放り投げ、太い鎖を抜きさすると、
「これもかよ…… 」
扉の取手下に二つの鍵穴に舌打ちした。
死神はすぐそこまで迫り寄って来ている。
雷はすぐにピッキングに取り掛かり、一つ目の鍵がすぐに開くと、二つ目の鍵穴へ。
「こんなに難しいのにしなくても、外部者なんて通常入らないだろ」
自分が外部者なのも忘れて文句を垂れているうちに、もう数メートルのところまで大釜を振りかぶった死神が近づいて来ていた。
「頼む! 」
祈りと共に鍵穴はカチリと音が鳴り、雷は急いで扉を開けて中へと転がり込み、それ以上のスピードで扉を閉めると、
カキキキキーーーン
鎌が当たる振動唇音が部屋中に響き渡った。
雷は素早く起き上がり鍵を閉める。
中からは一つのロックしか掛けれなかった。
死神がガタガタと扉を揺らし始める。
頑丈な扉なので破られる事はないと思うのだが、
「念のため…… 」
暗闇の中、手探りで床を探り、転がり込んだ時に倒したであろう棒を探り当て、引っ掛けへと差し込んで関の刺さった扉はさらに頑丈なものとなった。
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