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雷に躊躇はなかった。
鋭い切っ先を向け飛び掛かる。
それに対して玄也は微動だにせず、冷淡な表情も崩さないまま。
雷の叫び声と共に、鋭い切っ先は玄也の白シャツの胸ポケットへと突き刺さり、体重の乗った右手を押し込むとナイフは心臓目掛けて沈んでいった。
「なっ…… 」
先に声を上げたのは雷。
「いつの間にすり替えた? 」
グリップの感触がいつもと違った。
玄也の白シャツは、血液どころか埃すら付いていない。
ゆっくりと右手を引く雷。
グリップに隠れていた刃もゆっくりと出てくる。
「どうやって…… 」
これまでの人生、人を騙す事はあっても騙される事なんてなかった。
すり替えられたナイフを眺めながら、憧れていた奇術師の凄さを痛感し、複雑な思いに駆られながら目線を前に戻すと、
「やはり、お前には覚悟がないようだな」
玄也の右手にもナイフ。
いつの間にかすり替えていたナイフを上に向け、左手人差し指を切っ先に当てて、
「殺す覚悟も、死ぬ覚悟も」
グリップの中へとシュコッと押し込み、雷の足元へと放り投げた。
雷が右手に持つナイフも足元に転がるナイフも玩具、もちろん人を殺す事も殺される事もない。
「だから何だって言うんだよ!
たかがゲームにそんな覚悟必要ないだろ! 」
この部屋に入るまでの惨状を考えると覚悟は必要なのかもしれない。
だが、人に殺される、人を殺すという覚悟なんてものは簡単に持てるものではない。
「なら、その玩具を持ってさっさと出て行け」
玄也への反論も含め、
「あー、出てってやるよ!
そんな覚悟がなくったって、俺は生き延びて金持ちになってやる」
恐怖が待つ入り口へと踵を返した時、
ピロリロリー
携帯アプリゲーム【 C H OICE!】からの通知が鳴った。
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