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 ぐにっ。  前歯と奥歯の間、犬歯の辺りで噛み締める。  今日は恋人の亮とデートだ。  亮とは大学のサークルで出会い、社会人になっても順調に付き合っていた。もうすぐ5年になる。  亮のことは今もすごく好きだし、デートもとても楽しい。  だから尚更気を付けなきゃね、と鏡台の前で化粧をしながら自分に言い聞かせた。   ぐにぐに。  マスカラをまつ毛に塗りながら私は何度も噛み締める。  私にとっては愛情表現以外の何物でもなくて。  キスとかハグとか、そういうものと変わりないもので。  本当は彼に伝えたい想いであるはずなんだけど。  でもそれは伝えてはいけないものだということを、私はもう知っていた。    チークを頬に乗せて、ぐにー、とさらに強く噛み締める。  衝動を抑えるために、デート前は必ずこうして自分を満足させなければいけない。  化粧を終えた私は、噛んでいたものを指で摘まんでゴミ箱に捨てる。  歯型が幾重にも重なって歪んだペットボトルのキャップが、底に当たってカラリと音を立てた。  ……ほんと。  愛情表現はキスとかハグとか、いったいどこの誰が決めたんだか。  
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