切って、結んで、繋いで。

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雪が降っていた。どれくらい降っていたのか、真っ白いそれは地面も木々も、世界すら覆っていた。同じように白が覆っている屋根の縁に腰かけ、真上から少女を見下ろす。マフラーにダッフルコート姿の少女。長い黒髪を飾るように、雪が染めていく。 「今日も、同じ願いかな。」 足をぶらぶらさせながら、それでも目は少女だけを見つめている。狐も少女を見て、静かに目を伏せた。やがてゆっくりと手を合わせ、目を閉じる少女。願いを読み取るため、少年も目を閉じて耳を澄ませた。囁くようなか細い少女の心の声が、柔らかく流れ込んでくる。 (神様、弟を探しています。大切な家族です。大事な弟です。どうか、どうかあの子を返してください――。) 願うたび、少女はその瞳からポロポロと涙の粒を落とす。 何度もここにきては、何度も祈って、何度も泣いては、何度も諦める。 その、繰り返し。 「……おとうと。」 夢から覚めたように、ぱちりと瞬きを一回。それから、ジッと少女を見つめる狐を見て、その頭を優しく撫でた。 深くお辞儀をした少女は、またしばらく御社を見つめ、俯いて、背を向けた。重い足取りで雪を踏みしめて神社を後にする少女の背中を、少年と狐は見えなくなるまで目で追った。 それから、神社の隅にある小さな納屋を見て、その中にある“彼”を思い出す。 納屋を開けたことも入ったこともないけれど、少年は中にあるものを知っていた。 「覚えてないけど、覚えてるんだね。」 肩の狐が鳴く。 欠伸を一つ。気温は零度を下回っているというのに、少年の口から白い煙があがることはなかった。 不意に、狐が少年の頬を舐める。 「……もう。狐は泣けないからって、いつも僕を泣かすのはやめて。」 ――もう帰れない。 「そうだね。」 少女は、きっとまたここにくるのだろう。 そしてそのたびに少年は、少女の祈りを聴き、狐の代わりにただ静かに涙を流すのだろう。
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