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そんな話をしていたせいか、出勤前にバタバタとしていたら、兄が一緒に車に乗って行けと言った。しかし、社長である父と、専務である兄と同じ車に乗って出勤するわけにはいかないと固辞した。甘えればいつでも甘えられる環境は、自分から気をつけておかないとすぐに崩れ落ちそうだ。
なんとか始業時間に会社に着いた頃には、私は疲れ切っていた。しかし、素早く息を整えると、部長でも上司でもある浅緋に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはよう、九条さん。早速ですが、この出張精算、よろしくお願いします」
「はい」
返事をすると、じっと浅緋が私を見ていた。なによ、タレ目のクセに何か文句でもあるの、と私は浅緋を睨む。いや、睨んじゃだめだ。そういえば、というか、浅緋は上司だ。息を小さく吸い、どうしたんですか? と私は無理やり笑顔を作った。すると浅緋は、
「…少しこちらに来てください」
と立ち上がり、小さなミーティングルームに入っていく。なによ、とまた眉を寄せたが、私は浅緋の背中を追う。無駄に背が高くて肩幅の広い浅緋が前を歩くと、浅緋より前がまったく見えない。ちっ、こいつ邪魔ね。いますぐ背が縮めばいいのに。私は昔から、浅緋の背が高くてガタイがいいのが、気に食わなかった。
小さくてヒョロヒョロしていれば力でも私が勝利しそうなのに…。いや、本気で力勝負したことがなくても、浅緋が相手ならケンカで勝てそうな気もする。実際、浅緋との口喧嘩(といっても、私が仕掛けているものばかりだが)でも、私が浅緋に負けることは無いのだ。
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