2章:初めてのキス

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2章:初めてのキス

仕事中、同じ総務部で経理課の宮下さんが声をかけてきた。 宮下さんは、女性の私から見てもドキリとするほどの美人で、社内でも有名だ。そんな宮下さんが社内中の男性の告白を断っている理由は… 「九条さん」 「どうされましたか?」 「東馬さん、最近連絡がないの。忙しい?」 私の兄の九条東馬のせいだ。 「はい…」 昨日もほかの女性とデートしてたけど。とは言えない。でも、以前、兄がたくさんの女性と同時進行で付き合っているのは、すべての女性は了承済みであるということ聞いて、さすがの私も驚いた。宮下さんがわかっているかのように笑う。少し寂しげな笑みも美しいな、と私はそんなことを考えていた。きっと彼女は恋をしている。 私は恋をしたことがない。これまで、目の前の宮下さんのように、誰かを恋焦がれたり、その人の行動が気になったりするようなことは一度もなかった。恋って一体どんなものなのかしら…と少し考えてみたものの、私には必要のないものだと頭を振って、その考えをかき消した。
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