2章:初めてのキス

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書類を届けに専務室に出向いたとき、ちょうど誰もおらず、私は仕事上の会話を一言二言かわした後、 「お兄様」 と言う。これが、プライベートな話題になった合図。兄は、専務の顔から兄の顔になって、 「どうした? お見合いのこと?」 と私の顔を覗き込む。お見合い? なにか問題でもあるのかしら。私の方には何の問題もない。 「そうではなくて…また女子社員が私のところにお兄様のことききにきたのだけど。ほら、経理の宮下さん」 「…あぁ」 兄は少し考えて、思いあたったように頷いた。 「どうしてそんなに恋愛するの?」 「恋愛じゃないよ。僕は、結婚相手は決まっているだろ。だからだよ」 「え?」 私も決められた相手と結婚するが、私のほうがどちらかと言うと自由がある。実際に、もし私がどうしても結婚したい人ができたら、その人と結婚すればいいと母も言っている。しかし、兄は別だ。兄はそのようなわけにもいかない。決められた相手との結婚は絶対なのだ。どうせなら、私と兄が反対ならよかったのに。私は誰でもいいから…。兄は好きな人でもいるのだろうか。しかし、兄が言ったのは意外な言葉だった。
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