2章:初めてのキス

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「僕はね、結婚相手と生涯うまくやっていきたいんだ。そのためには色々なことを知っておかないと」 「どういうこと?」 「彩奈も結婚するという割には全然そういうことを知らずに大丈夫なのか。恋愛どころか、キスも知らないだろ」 兄があきれたように言う。つまり、兄は、結婚までにそういうプライベートな恋愛の部分を熟練しておきたいということを言いたいのだと思った。私はそれなら、とふんと息を鳴らす。 「別に熟練していなくても、キスくらい誰とでもできるわ」 幸いにして、私は、誰かを好きというような感情は持ち合わせていないようだ。その方が誰とでもそういうことはできるはずだ。兄は、そんな私を見て、少し考えたかと思うと、 「ふーん、浅緋とでもキスできるの?」 と聞く。なんでここで浅緋が話に出てくるのよ。私は眉を寄せる。 「何故、浅緋? まぁ…できるわね。浅緋じゃなくても誰とでもできるわ。お兄様とも幼い頃にしたことあるじゃない。お兄様、私が寝てる時におでこにチュッとしたわ」 兄は、その昔、寝ているふりをした小学生の私のおでこにキスをしたことがある。その出来事は、今も何となく覚えている。意外だったからだ。それほど、妹(私)がかわいかったという事だろうか。 「ところで彩菜、ほんとのキスはおでこではなく、唇だ」 「場所はどこだって変わらないわ」 おでこだろうか、唇だろうが、何も変わらない。自分の唇をちゅっと相手の身体のどこかにつけるだけのこと。海外では当たり前にやっているじゃない。兄は、少し真剣な顔をすると、 「とにかく、練習くらいしておけ。結婚して、キスや閨が下手すぎると、離婚されかねん」 と言う。閨、と言うのは、子どもをつくるものだということはさすがの私でも知っている。保健体育で習った行為のことよね。でも、キスやそんな行為が下手だと離婚されるの? それは知らなかった。さすがにそれはまずい。
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