ボクはただ『普通』になりたかっただけなんだ。

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ボクはただ『普通』になりたかっただけなんだ。

 ボクの家はそれなりに裕福な家庭で、欲しいモノは何でも手に入る環境だった。パパとママ、二歳下の可愛い妹。幸せな家族だった。  夏休みや冬休みには別荘に行って遊んだりもした。あの頃、きっと一番楽しかったよ。中学生一年生のとき、それはある日突然始まった。  ママがパパに暴力を振るうようになった。DV、家庭内暴力ってやつ。きっかけはパパが不倫しているとママが勘違いしたこと。  ママは一度、頭に血が上ると止まらなくなる質で、パパをひたすら罵倒して殴ったり蹴ったりしてたよ。パパは虫も殺せないような気弱な人だったんだ。耐えて耐えて、嵐が過ぎ去ったあと死んだように息をしてた。  ボクら姉妹はそれを見ていることしかできなかった。そのうち勘違いの不倫が近所にもれて、同級生にもれて学校でいじめられるようになった。いじめっ子を殺した後にボクも死んでやろう。そう思ってボクは刃物を手に取った。  その後は新聞記事の通りだよ。いじめっ子たちは重傷だったけど命は助かった。でもクラスで目立つ可愛い子たちだったから、顔に傷がついたことがショックで精神をおかしくしたって聞いた。  少年院に入って出所したら家族は離散してた。ママは行方不明、妹は事件の二か月後自殺してた。パパは生きていると思うけど会えてない。家の住所も家族の個人情報もネット上にばらまかれてたよ。ボクは名字名前を変えた。本当は整形して顔も変えるつもりだったけど資金が足りなかった。  住む場所を変えてもすぐにバレるし、石を投げられるなんてしょっちゅうだったよ。一度目に入学した大学は一か月でバレて退学した。今回はうまくいくと思ったんだけどな。  最後にキミを選んだ理由を教えてあげる。キミは誰よりも普通だったから。他の男と違って容姿に惹かれてまとわりついてこないし、ボクにまるで興味がない。  普通に恋愛して、普通に大学生活を送って、普通の人間として生きるのにキミが最適だった。普通って誰が決めて何の基準でなれるもの何だろうね?  ボクはただ『普通』になりたかっただけなんだ。  
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