「ボクと付き合わないか?」

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「……珍しいこんな時間に。まだ夏休み期間だろう? キミは一体何をしに来たんだい」  筒城築だった。情報通の友人がよく話題に上げていた人物。大人数の男子学生の告白をことごとく振った女。学科一の変わり者。容姿端麗。同じ学科だったから顔は何度か見かけたことがあったが、これほど至近距離で見たのは初めてのことだった。 「いや……特に用はないんだ」  頭を掻きながら素っ気なく答える。いきなり話しかけられたから、相手側に動揺が伝わっていなければいいのだが。筒城は二、三歩、歩み寄った。 「キミはボクと同じ学科だったよな? 名前は確か冴島……真樹」  なんで名前を知っているのだろうか。俺はそもそも筒城と面識がない。俺が一方的に学科内の有名人を知っているだけだ。俺の戸惑いなどお構いなしに筒城はまくし立てる。 「それにしても今のキミは悲しそうだねぇ……いつもは決して明るくないが人当たりは良い方だろ?」  初対面の人間に失礼な発言だ。間違ったことではないが本人の前で言う必要はないじゃないか。悲しそうって分かっているなら、そっとしておけよ。無神経な女だな。なんて口に出す気力もなく呆れていた。    俺は踵を返した。グッと腕が進行方向と逆に引っ張られる。筒城が不服そうな顔で腕を掴んでいる。「なんだよ」と言って振り払うつもりだった。が、しかし筒城が先手を打つ。 「ボクと付き合わないか?」  その声は冷たく鋭利で鬼気としたものだった。まるで喉元にナイフを突きつけられているような感覚。背中に一筋の汗が伝う。筒城の手は震えていた。絶対に離さないとでも言うように力強く。 「……いいよ」  この心の穴が埋まるなら。どんなに不純な動機だとしても。 「付き合おう」  俺は既に筒城の毒に侵されていたんだと思う。そうでなければ告白を承諾するなんてこと絶対にしない。
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