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「じゃあ、誕生日はいつ?」
「おーなんだいなんだい。誕生日プレゼントを用意してくれるのかね。キミの気持ちは嬉しいが、実は正確な日付を覚えていないんだ」
誕生日を覚えていない? 記憶喪失なのか? 考えてすぐやめた。また一つ謎が増えた。次いで血液型、趣味、特技、好きな食べ物、好きな音楽……プロフィールに書くようなことを質問していった。
改めてお互いのことを何も知らないんだと思った。筒城は終始曖昧な返事しかなかったが。
端的に言うとパーソナルな情報が欠落しているように感じた。筒城はワッフルを丁寧に切って口の中に放り込む。咀嚼したあと紅茶を飲み干す。
「ボクの番だ。なぜキミは人文学部哲学科を選んだのか?」
「なんか面接みたいだな……」
俺は苦笑して嘆息した。筒城は目をらんらんと輝かせて待ち構えている。
「理由は三つある。一つ目、俺の両親が熱心なキリスト教徒で影響を受けたこと。二つ目、倫理学と哲学が好きだから。三つ目、親には大学を出てほしいと言われたから。以上だ」
筒城は少し驚いたようでフォークを持つ手が固まっていた。そして苦手なあの目で見つめてくる。
「ふーん意外とちゃんとした理由があるんだな」
「そういう筒城はどうなんだ。俺が答えたんだから君も答えてもらわないと困る」
「そろそろ、その筒城呼びやめてくれないか? せめてキヅキとか、キヅキちゃんとか呼んでくれよ」
「どっちも、キとツが多いだけでそんなに変わらないじゃないか」
「それはちょっと傷つくな……」
筒城は顔を歪ませて、さらに残っているワッフルの最後の一かけらにフォークを刺した。
「すまない俺が悪かったよ。謝る」
「キミのそういう素直なところが、ボクは好きだよ」
模範のように綺麗で作り物のように感じてしまう笑顔。筒城は息をするように「好きだ」と言う。今まで俺の周囲に、こんなにもストレートに気持ちを口にする人はいなかった。元カノと付き合い始めた頃は、お互い好き好き言っていたけれど、時間が過ぎればそれが二人の間で当たり前のようになって言葉にしなくなる。
お互いの気持ちが同じだと信じて疑わないから。でも、そうすることは危険だ。テレパシーが使えるわけでもないし、心の中を見ることなんてできない。気持ちは言葉にして口に出さなければ無意味なのだ。強く思っているだけじゃ相手には伝わらない。
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