「質問大会をしようじゃないか」

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「……話を戻そう。そうだな……強いて言うなら『生きるため』かな」    俺は首を傾げて分かりやすく疑問の色を浮かべる。やはり彼女は難解である。筒城は橙色が綺麗な照明を見上げて恍惚とした表情で語りだした。 「ボクにとって形のない何かを考え続けるっていうのは一番の快楽で、呼吸と同じことなんだ。 考えることなら何の学問でも好きだったけど、特にボクの思考とマッチしたのは哲学、倫理学、宗教学。 世間から見れば理解され難くて「将来なんの役に立つの?」って思われるよね。 でも、それはボクに必要不可欠なモノ。それらを学ぶっていうのは、ボクが生きる意味──存在理由そのものなんだよ」  実に筒城らしく難解で独特で──興味深い答えだ。やはり彼女は良くも悪くも他人とはズレている。  別れ際、筒城は言った。 「キミは……ボクの隣にいてくれるんだな」 「一方的に巻き込まれてる感じだけど」 「それは否定しない。───キミはボクの姿を知っても変わらないでいてくれるのかな……」  彼女のひとり言のような言葉たちは、夕方の大気に浮遊して心に留まることなく霧散していった。
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