本当の姿

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**  食い入るようにスマホの画面を見ていた。手は細かく震えていたと思う。身体全体が心臓になったように脈打つ。最初は山村が嘘を吐いているのかと思ったが、俺の知る限り彼はこんなにも悪質で手のかかることをするような奴じゃない。  じゃあ筒城アンチが悪い噂を流すために作ったのか? いや違う。下手したら訴えられるような内容だ。そこまで彼らも馬鹿じゃないはずだ。頭の中で疑問符が増殖していた。これが事実ではないという証拠が欲しかった。  ならばどうすればいいか。答えは簡単だ。自力で調べるしかない。レポートを作成するために入った個人経営の小さな喫茶店の隅の席で俺はスマホの電源ボタンを押した。  ここで失態に気付く。充電バッテリーが3%しかなかった。昨夜うっかり充電するのを忘れてしまっていたのだ。この店にはWi-Fiがないし、家に戻るまでに充電がもつとは考えにくい。  このまま家に帰るわけには行かない。明日、筒城にどんな顔をして会ったらいいか分からない。山村が忠告だと教えた重荷に明日まで耐えられそうになかった。今日中に事実ではないと、はっきりと証拠を掴まなければいけないと心が駆り立てていた。  大して口を付けていないコーヒーを置いて、一文字も進んでいないレポートをしまい喫茶店を後にした。正確かつ信憑性の高い情報が得られる場所──図書館である。  図書館なら過去の新聞の縮刷版が置かれている。そこに行けば証拠が掴めるかもしれない。いや、今回の場合は事実が見つからないことに期待しなければならない。筒城はそんなことする奴じゃないと。  幸いにも歩いて10分とかからない場所に喫茶店と市立図書館は位置していた。自動ドアをくぐると暖房が効いているのか、生暖かい空気が肌をかすめた。  はやる気持ちを抑え貸出カウンターにいる職員に声をかける。数分してから職員は俺の指定した縮刷版を手にして戻ってきた。それを持って窓際の開放的な席に腰を下ろした。  20××年、6月の縮刷版新聞。今から数年前のものだ。恐る恐る一ページ一ページゆっくりとページをめくる。山村のスマホ画面に書かれていた日時が来ないように。証拠が見つからないように、記されていないように。  
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