本当の姿

3/3
前へ
/10ページ
次へ
目に飛び込んできた見出しを見て、両手で顔を覆う。絶望なんていうものはこの世に簡単に転がっているのだ。山村に見せられたスマホ画面が脳裏によみがえる。  【筒城 築は人殺し。この女は20××年6月2×日K県T市で起きた女子中学生殺害事件の犯人です】  そういうような内容の文言と制服姿の筒城の写真が載せられていた。写真は生徒手帳に貼るような空色の背景のものだった。そして、今開かれている20××年の縮刷版には投稿に書かれていた日時の事件が掲載されている。  見つからなければいいと望んだ事実。しかし、新聞記事と投稿には若干の違いがあった。新聞の記事では犯人とされる少女Aが殺人未遂で逮捕されており、事件による死者はでていない。  新聞記事が正しいとするとSNSの投稿は嘘ということだろうか。そもそも、投稿と新聞記事の事件は同一なのだろうか? 実は前提から間違っていてこれらは無関係の出来事なんじゃないか。  俺は彼女が犯罪者ではないと確証が欲しいがために、様々な仮定を答えと括り付けていた。筒城アンチが過去の事件を引き抜いて、筒城を犯罪者に仕立て上げたのかもしれない。  きっとそうだ。そうに違いない。我ながら滅茶苦茶で筋が通っていないと思う。もう考えるのは止めにしよう。投稿も新聞記事も見たことを忘れよう。そう思い、縮刷版の表紙に触れたとき── 「『同級生2人を刺傷 K県15歳少女を逮捕』」  開いたページの見出しを読み上げた、その声はよく聞き覚えのあるものだった。どこか鋭さを帯びた美声の持ち主。音もなく筒城築は俺の側に立っていた。喉の奥がヒュッと鳴る。何とか発した声は裏返っていた。 「どうして、君がここに……?」  筒城は悪びれる様子もなく満面の笑みで言った。 「ん? 偶然だよ。図書館に入っていくキミを見かけたんだ」  筒城は人差し指をゆらりと動かして、口元に当てた。細めた目の光が心なしか強く見えた。 「あーあ、バレちゃったなぁ……大丈夫だと思ったんだけどな……」  冷たい汗が額を流れていく。目の前にいるのは筒城ではない別の誰かなんじゃないだろうか。これは夢じゃないのだろうかと。 「君は……筒城さんは……この事件の犯人なんかじゃないよな?」 「残念だけど、その記事の少女Aはボクだよ」  最後の望みが砕け散った瞬間だった。思考回路が断線していく。 「少しだけボクの話を聞いてくれないか。キミには話しておきたいんだ。キミの目の前からボクがいなくなる前に」  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加