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気がついたら、部屋が暗くなってた。
翼が太い腕に、僕の頭を乗せてくれているみたいだった。
「気がついた?」
「……うん」
「メシ、食う?」
「いらない……」
まだ体はだるくて、起き上がるより、こうしていたい気分だった。
翼の顔を見るのが恥ずかしいけど、そのままの格好で、ちょっとだけ気になってた事を翼に聞いてみることにした。
「翼。ひとつ聞いていい?」
「何? 」
「何で、今日突然僕に告白する事にしたの?」
翼はしばらくどうしようかな、と迷うように口をモゴモゴ動かしてたけど、ようやく口を開いた。
「……絵描いてるお前がさ、すっげ格好よかったんだよ。おまけにエロいし」
「え?」
「こんなのほっといたら、絶対他の奴に取られるって思ったらさ、もうガマンできなくて」
「なにそれ」
僕は、おかしくなった。だって、それじゃ僕と一緒だよ。
僕が翼に感じてた嫉妬や憧れみたいなのを、翼も感じてたんだ、と思うと、少しほっとした。
やっぱ、幼馴染なんだ。
ずっと一緒にいたから、考える事まで似てきちゃってる。
「笑うなよっ……クソ、もう少しマトモに告白するつもりだったのに」
「でも、それじゃ多分、僕自分の気持ちに気がつけなかったよ。今日だから、だよ」
「へ? そうなのか? 」
そうだよ、翼。自分の気持ちに気がついたのだって、ほんの偶然みたいなものだし。普通に告白なんてされてたら、多分引いてたと思う。
「……僕もね、翼の事描いてて、一人だけこんなに、夢にめがけて突進して、かっこよくなって、ずるいって思ってたんだ」
「じゃあ、今日来れなかったモデルに感謝だな」
「そうだね」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
一緒に、翼の腹が盛大に鳴る。
「わー、カッコ悪」
「うるせぇ! 頑張ったから、腹減ったんだよ」
恋人、っていうには、僕たちはお互いを知り過ぎちゃってる。そもそも、なんで好きになったかさえ分からない位、一緒の時間を過ごしてるんだ。
でも、幼馴染っていう枠には、もう収まれない。
かっこつけも、日常も、どちらにも戻れなくなっちゃったけど。
でも、それでもいいと思ってる僕がいる。
「メシ、食おう、メシ」
よっこいしょと、年寄りくさい事を言いながら、翼は起き上がる。
かっこいいけど、全然かっこよくない、僕の好きな人。
「終わったらメシなんて、お前サイテー」
そういう僕の髪をぐちゃぐちゃとかき混ぜて、翼は嬉しそうに笑った。
「お前が好きな、小野寺翼っていうのは、そういう男なの」
それで納得しちゃう、僕も僕なんだろうな……。
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