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 一体、この美しい(ひと)は何を考えているんだろう……。  明るく澄んだ鳶色の瞳をいくら見つめても答えは全く見つけられそうにない。  それでも、僕が深く頷いたのは取りあえず一晩でも夜露(よつゆ)をしのげることをよしとしたから……ではない。  僕の方でもこの青年紳士――白神 瑛さんに興味を持ったから。  惹かれはじめていたからだ。 「よし、決まりだね」  当然という風に白神さんは言うと、奥に控えていた青年に勘定を申し付けた。 「また、近いうちに寄らせてもらうよ」  親し気にそう言って白神さんは青年の肩に手を置いた。 「ええ、またのお越しを心からお待ちしております」  何でもないようなお客と店員のやり取りのはずなのに、美青年同士であるからなのか、身体に触れるしぐさのせいか妙になまめかしいような感じがした。  並んで立つと白神さんの方が青年よりこぶし一つ分以上か背が低く、体つきも華奢だ。  白神さん自身は背の低い方ではなく、むしろ平均よりもいくらか上をいくぐらいに背が高い。  それでも、決して人に威圧感を与えないのは柔らかい物腰のせいか、スラリとした体つきのせいか……外見からして何とも不思議な印象の人だ。  店の前で見送る青年に手を振った後、白神さんは上衣の隠しを探って懐中時計を取り出した。 「この時間なら、まだ力車もいるだろうが、まずは少し歩こうか。夜風が気持ちいいね」  確かに、酒で火照った頬をなぶる爽やかな卯月の風は心地よかった。  僕と白神さんは取り留めのない話――カフェーでの食事の話や、独逸語の言い回しについて、あるいは白神さんが旅したという欧州についてひとしきり語りあった。  なぜだか、先ほど白神さんに問い詰めようとした彼の易者のような所業(しわざ)については蒸し返す気になれなかった。  それくらい気持のよい夜の中、僕たちは足取りも軽く歩き続けた。    小一時間ほど歩き続けた頃、白神さんの足取りが見る間に重くなっていった。 「ねえ、明朗君。そろそろ力車に乗らないかい?」 「いいえ、まだ僕は歩けますよ。白神さんこそ、お若いのですから」 「君ほどじゃないよ。いいねえ。学業優秀なだけじゃなく、体力まであるなんて」 「僕は、野球とかは苦手ですよ。学生には人気がありますけれどね。ただひたすら歩くのや、山登りなんかは苦ではないですが……」 「いいことじゃないか。『根性がある』というやつだね。でも」  すっかり足取りが重くなった白神さんは雑談にかこつけてついに足を止めてしまった。  帽子をとり、片手で後ろ髪を軽く跳ね上げてからふーッと息を吐いて数歩先の僕を見ている。 「残念ながら私には君ほどの持久力はないんだ。今夜ばかりは招待主の都合に合わせてもらうよ」  街灯の頼りない光の下、髪をかき上げ薄く笑った白神さんは何となくどこか儚げに見えた。
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