3、白い別荘

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3、白い別荘

 美代の家に来たのも、二十二年ぶりなのだから、当然、坂の上に別荘があること自体、一花は知らなかった。  土地勘のない人に「葉山」というと、高級なイメージで返されることが多い。  セレブだと言われることも多々あったが、美代から聞いていた情報と、それで「お金持ち」扱いされることに、軽い反発心もあって、一花は、指摘される度に、海の近くでなければ、基本「田舎」だと言い返していた。  そもそも、車やバイクがないと、スーパーにすら、バスで買い物に出向かなければならないのだ。  コンビニですら、美代の家から徒歩十五分以上だ。  田舎以外の何物でもないだろう。  けれど……。  今、目前に聳えている『別荘』を目の当たりにして、一花は考えを改めた。 「セレブって、本当にいるのね」  世の中には、想像以上にお金持ちがいるということだ。  坂道を休み休み歩いて、辿りついた山の頂き。  白亜の別荘は、燦然と輝く陽射しを後光に、青い空を背景に抱いて、優雅に建っていた。  別荘というより、もはや外国の宮殿だ。  洒落た黒い門扉の向こうには、噴水まで設けられている。  奥には、プールまであるようだ。
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